多様な映画の観客育成プロジェクト(日本・インドネシア編) の全体活動報告
事業実施日程:
<映画上映者の国際交流!>
11/19/2014 神戸映画資料館(神戸)
神戸映画資料館とアーカイブを視察後、田中範子支配人より、施設と運営の歴史と現在を聞く。『エドウィン短編集』(インドネシア)、『不気味なものの肌に触れる』(日本)の上映後、インドネシアと日本の製作者・上映者が地域と映画づくり&上映についてシンポジウム。一般入場者22名。
11/20 プラネットプラスワン(大阪)
上映スペースPlanet+1を視察、富岡邦彦代表より施設と運営の歴史と現在を聞く。同じビルの若手制作者育成シネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)との連動など、制作と上映の関係について語り合う。日本の若い監督・俳優と交流する。
11/21 名古屋シネマテーク(名古屋)
名古屋シネマテークと図書室を視察後、平野勇次支配人より施設と運営の歴史と現在を聞く。インドネシア映画の名古屋上映の可能性、日本のミニシアターの未来について話し合う。
11/22 アテネ・フランセ(東京)
『空を飛びたい盲目のブタ』『隕石とインポテンツ』『タリウム少女の毒殺日記』『ラブリー・マン』の上映と上映後に関係者のトーク。入場者数68人。ワークショップ「映画体験は世界を広げる?」ではインドネシア映画『ラブリー・マン』を日本で上映するアイディアを話合い、奇しくも日本社会の今を考えることに。ワークショップ参加者20人。
11/23 アレイホール(東京)
シンポジウム「いろいろな映画の上映振興のために」を開催し、インドネシアでの映画上映の詳細な報告を受け、日本の映画上映の現状について討論。会場とも活発な質疑応答を行なった。参加者59人。
インドネシア大使館の協力で、インドネシア料理をふるまうレセプションが続き、さらに交流が深まった。
11/24 エスパス・ビブリオ(東京)
『愛を語るときに、語らないこと』『大津波のあとに』『目隠し』の上映後、作品が公開されたときの社会的状況や観客の反応をテーマにトーク。参加者37人。
<ANEKA RIA SINEMA> (訳:さまざまなお楽しみ映画)
12/6/2014 JAFF(ジョグジャ・ネットパック・アジアン映画祭)(ジョグジャ)
映画祭の関連プログラムとして『歓待』を特別上映、監督ほかゲストがシンポジウム「多様性とスクリーン体験」で討論。参加者約200人。JAFFの閉会式に参加。
12/7 Tembi Rumah Budaya(ジョグジャカルタ)
ドキュメンタリー映画祭の関連プログラムとして『祭の馬』を上映、地域の自主上映団体、自主配給をしているドキュメンタリー制作者などを交えてラウンドテーブルの意見交換。参加者約40人。
12/8 JFA(ジョグジャカルタ・フィルム・アカデミー)(ジョグジャ)
映画大学で『タリウム少女の毒殺日記』を上映、東京にいる監督とインターネット中継でディスカッション。映画保存と映画上映について、日本の事情を映画を学ぶ学生たちと話し合う。参加者約30人。
12/9 キネフォーラム(ジャカルタ)
ジャカルタ市内のミニシアターで『歓待』と『タリウム少女の毒殺日記』を上映し、監督とネット中継も使ってトーク。シネクラブなど大学で自主上映をする6つのグループが活動について発表し、日本ゲストや互いと交流をした。参加者約40人。
12/10 PFN(インドネシア国立映画製作所)(ジャカルタ)
かつて東南アジア最大の映画産業の中心だったが今は廃墟となっているPFN。所長が歴史と今後の計画について講演。映画制作者ら参加者と激しい論争に。『東京物語』をJFの16ミリプリントで上映し、映画保存とフィルムの重要性についてシンポジウム。スハルト時代に虐殺された人の遺族が加害者を探し出し和解を探る『サウンド・オブ・サイレンス』を上映し、映画が歴史とどう向き合うのかを巡る白熱したディスカッション。のべ参加者約100人。
主なプロジェクト関与者・機関:
<主催者>
特定非営利活動法人 独立映画鍋(日本) 映画関係者の互助会組織。会員約120人。共同代表は土屋豊、深田晃司。
ドキュメンタリー・ドリームセンター(日本) 世界のドキュメンタリーの上映配給、若手制作者のワークショップなどを手がける。代表は藤岡朝子。
コレクティフ(インドネシア) インドネシアでインディペンデント映画の自主上映を推進するためのプラットフォーム機関。代表はメイスク・タウリシア。
<協賛>
スカパーJSAT株式会社
ガルーダ・インドネシア航空会社
キーコーヒー株式会社
Tembi Rumah Budaya
<助成>
アーツカウンシル東京(公益財団法人 東京都歴史文化財団)
国際交流基金アジアセンター (アジア市民交流助成プログラム)
<協力>
神戸映画資料館
Planet+1
名古屋シネマテーク
アレイホール
アテネ・フランセ文化センター
エスパス・ビブリオ
大阪アジアン映画祭
東京国際映画祭
Jogja NETPAC Asian Film Festival
Festival Film Dokumenter Yogyakarta
Jogja Film Academy
Kineforum
PFN(国立映画製作所)
<後援>
在日インドネシア共和国大使館
<プログラムの出演者>
(日本で)メイスク・タウリシア、アドリアン・ジョナサン、サリ・モフタン、藤岡朝子、深田晃司、石川翔平、土屋豊、森元修一、田中範子、濱口竜介 10人
<プログラムの出演者>
(インドネシアで)藤岡朝子、深田晃司、酒井健宏、石原香絵、メイスク・タウリシア、アドリアン・ジョナサン、サリ・モフタン、イスマイル・バスベス、チャリダー・ウアバムルンジット、イファ・イスファンシア、シェルヴィ・アリフィン、アブディ・スリャ・アディ 12人
<聴衆参加者>
日本:156名、インドネシア:480名 合計:636人
※ 入場料金・参加料金: 日本は800円~1200円、インドネシアは無料
事業概要
営利本位の映画流通とネット配信等を通じた映画の個人視聴が増える中、映画を大スクリーンで体験できるかどうかの地域格差や上映作品の画一化が進んでいる。インドネシアと日本で、このような共通課題を抱える映画の作り手、上映者、観客が、多様な映画の上映機会を確保する意義と観客の育成について考えるため、両国で上映やシンポジウムを行なった。
第一部では、ベルリン映画祭コンペ部門初のインドネシア映画をプロデュースしたメイスク・タウリシア、映画批評と上映会企画で活躍するアドリアン・ジョナサン、映画製作の現場や映画祭で重要な仕事をするサリ・モフタンが来日し、神戸・大阪・名古屋・東京のミニシアターを訪問し、インドネシア映画の上映会や上映についてのワークショップを経験し、日本の同業者と連日議論を深めた。
第二部では、気鋭の映画監督・深田晃司、名古屋をベースにする映画批評・製作・上映の酒井健宏、映画保存協会で古いフィルムの修復と保存の啓蒙活動を担う石原香絵、DDセンターでドキュメンタリー映画の上映を続ける藤岡朝子がインドネシアを訪問。ジョグジャカルタとジャカルタの映画祭、映画学校、自主上映団体の集い、国立映画製作所で日本映画を上映し、映画上映をテーマに話合いを重ねた。
古い映画、ドキュメンタリー、宗教や性に関わる挑発的なテーマ、など主流娯楽映画ではない作品を上映し、インディペンデント映画の上映と保存について互いの体験と考えを紹介し合い、連日さまざまな会場で異なる観客とのディスカッションを体験した。その交流から参加者は、活動の意義を再確認し、国を越えた仲間の連帯感に励まされ、今後の映画上映の方法や方針にヒントを発見する事業となった。
観客・参加者の反応、アンケート結果等
【日本】 各地のミニシアターへの訪問と交流は、インドネシアの訪問者にとって(特に古典映画への敬意の姿勢が)刺激となり、日本の受け入れ側にとっては、語ることで自分の歴史や活動意義を捉え直す機会となった。一般観客は、インドネシア映画を見ることで、文化的な理解(「ブタ」や「神」の捉え方の違い、等)を促され、特にゲストを迎えた討議を重視したおかげで異文化交流の意味合いが深まった。日本のインディペンデント映画も意外にアンケートでの反応がよく、あまり上映の機会がない映画こそ、商業上映以外で上映され続けられる意義を感じた。
【インドネシア】 連日、若い観客が多く集った。映画を見るだけでなく、特に自主上映団体や映画の学生は熱心に自分の意見や感想を述べ、新しい映画体験への意欲と好奇心を強く表した。日本から参加した各人は、日本での状況を説明する機会を得て「継続すること」「保存の重要性」などのメッセージを発信。日本から上映者を迎えたイベントを受けて、インドネシア国内の諸問題を議論する(自主上映の意義、国営映画撮影所の役割、映画保存を軽視してきた問題、等)きっかけとなったのが、意義深かった。
事業の達成目標
文化市場が急速に拡大する多文化国インドネシアと、成熟を迎え文化消費が二極化する日本の、映像制作者・上映者の国際交流を通し、互いに触発し合い、さらなる多様な映像上映活動が両国で展開することを目的とした。特に、制作と両輪をなすべき「上映の創出」「未来の観客の育成」に焦点を当てた。商業的には高い利益をあげないが、芸術性・文化的な評価の高い多様な映像をインドネシアで上映している人たちを日本に迎え、東京でインディペンデント映像の上映意義を考える。また、東京発の映像作品をジョグジャカルタとジャカルタで上映し、日本(東京)とインドネシアの多様な映画をめぐる協働の場を創出し、新しい観客の拡大に貢献することを目標とした。
事業の自己評価(1)
当初の達成目標に対しての成果・課題 両国の映画上映の現状について、参加者たちは互いによく理解することとなった。特にインドネシアの映画観客の若さと貪欲さ、多様な映画を上映・討議したいと考える若者たちの活力に、日本チームは圧倒された。
シネコンチェーンが担う中央集権的な映画流通の方式とは別の、神戸やバジャルダガナのような地方都市で映画が育まれながら作られ見られていく、コミュニティ映画上映の可能性とその教育的価値や社会包摂的な意味が注目を集めた。映画鑑賞を観客数の多い少ないではなく、上映後のディスカッションの深まりや、体験としての学習(例えば古い映画であれば歴史という縦の線、異国の映画であれば多文化理解という横の線)のような質的価値で評価していくことの重要性が議論の中で幾度も確認できた。
連日、違う会場でさまざまなタイプの観客と出会わせるプログラムは野心的で、参加した10名弱の中心参加者たちにとっては、まちがいなく大きな刺激になった。一方、多岐なディスカッションと出会いを総括する間がないままに、現在に至っているため、「報告・反省会」を催して今後の「新しい観客の拡大」プランに具体的にどうつないでいくか、本事業を未来の計画と結び付ける課題が残されている。
事業の自己評価(2)
芸術全般あるいは社会全般に対しての意義 かつてスハルト政権下で反共プロパガンダ映画を製作していた国立映画製作所。その前身を作る手助けをしたのは、戦前の日本の映画人だった。今回、その廃墟で『東京物語』を上映し、60年代虐殺の被害者を主人公にしたドキュメンタリー『ルック・オブ・サイレンス』を上映した。そして映画の保存と歴史について語り、国営映画公社の未来と映画の公共性について討議した。このこと自体、時代を記録する装置であり、同時に時の権力と分かちがたい映画というメディアを象徴するような事件で、イベントとしての意義は重かった。
パネリストのひとりは語った:「映画は、民主主義のバロメーター。上映される映画が多様であればあるほど、それを見る観客というのは違いを受け入れることが出来る、寛容な国民である。観客が少なくても、映画上映を続けることは社会に対する責任、使命だ。」 人権弾圧と強権政治の時代が未だ影を残すインドネシアだからこそ、さまざまな映画を自由に上映し討議することのおもしろさと重要性に、若い人たちは自覚的であった。ひるがえって日本では、平和で安定した成熟した社会で、映画文化の担い手たちが高齢化・疲弊している。今までの継続力が培ってきた日本の映画上映環境を振り返り、評価をし直すと共に、インドネシアの状況と照らし合わせてこれからのあり方を考える課題が導き出された。
事業の自己評価(3)
主催者の今後の創造活動における意義 (独立映画鍋として) 映画の制作、技術、上映、鑑賞、配給、などそれぞれ違う形で映画と関わる120人のメンバーにとって、独立映画鍋の掲げる標語「つくる・みる・ひろげる~多様な映画を支え育む」はこれまで抽象的、断片的であったかもしれない。インドネシアのゲストを迎えてイベントを企画・運営する中で、映画を作ることと上映することの循環サイクルが、文化社会・経済の成り立ちと密接につながっていることが見えてきた。力を合わせてプロジェクトを成功させていくまでの苦労から生まれたチーム力に加え、スタッフ一同は今後業界や社会に対する政策提言を創造的に実践していくときの、総体的な文脈づくりを、本事業で培うことができたと思う。
今後の課題
国際交流と異文化理解を通して見えてきた、日本の映画業界の諸問題と、特にインディペンデント映画のじり貧な状況に対して、独立映画鍋がどのように改善を提案できるのか? 実際には課題解決のためのアクションプランを考案していくことが、本事業を受けての今後の課題である。
今後の活動目標(将来ビジョン)
映像文化の多様性を確保することは、他者理解と多文化共存を掲げる民主的社会の重要な使命である。今回の事業で、インドネシアでの商業映画の検閲制度や、沈黙に抗うかのような熱心で活発なコミュニティ上映活動を知ったことで、グローバルな政治経済の荒々しい奔流の中に身を置いている日本もまた、表現の自由と芸術鑑賞の自由を担保する社会を自覚的に守らねばならないと強く思う。数年のうちに、認定NPOの登録を目標としている当団体としては、社会と映画文化を切り結ぶ公共的なプラットホームとして、さらに活動を繰り広げ、多様で優れた映画の製作と発表の振興支援をすることを目標とする。具体的には、資金繰りのサポートや定期的な勉強会(鍋講座)、国際・国内交流の機会づくり、公的支援や文化政策への意見表明を通した活発な活動である。
パブリシティ一覧
■ラジオ関西「シネマキネマ」 (11/26/2014 )メイスク・タウリシアのインタビュー。神戸でのディスカッションとこれからのプログラムについて。
■NHK国際放送(インドネシア語放送) (放送日未確認)メイスク・タウリシアと藤岡朝子のインタビュー。本プログラムについて。映画上映がなぜ大事でおもしろいのか。
■カルチャー・サイト ガドガド(レポート) http://gadogado.exblog.jp/20419535/
■インドネシアのネットメディア http://www.koalisiseni.or.id/ketika-film-saling-berbalas-setelah-30-tahun/ 他多数 ■【写真】http://www.koalisiseni.or.id/galeri/nggallery/galeri/aneka-ria-sinema
実施事業の記録写真及び動画
■ウェブ・レポート (2015/1/6) 映画上映者の国際交流!(インドネシア編)レポート[執筆者:石原香絵] http://eiganabe.net/2015/01/06/971
■ウェブ・レポート (2015/1/26) 映画上映者の国際交流!(日本編)白熱のシンポジウムレポート[執筆者:石川学] http://eiganabe.net/2015/01/26/1026
■公式サイト(日本) http://eiganabe.net/indonesia/
■公式サイト(インドネシア) http://kolektif.id/
■総合レポート・参加者感想文(現在まだ準備中): http://www.ddcenter.org/ ■動画記録 11/23シンポジウム「いろいろな映画の上映振興のために」 http://youtu.be/lblb0hDmvXA
文責:藤岡朝子(ドキュメンタリー・ドリームセンター代表)2015/4/25
doc.dream.center@gmail.com