【インディペンデント映画のためのCG・VFX講座vol.1】レポート
去る10月25日、52回目の鍋講座がいつもの下北沢アレイホールで開催されました。今回の講座タイトルは、【インディペンデント映画のためのCG・VFX講座vol.1 ~このシーン、どうやったらつくれますか?~】。映画鍋設立12年、52回も続けてきた鍋講座ですが、今回初めてCG・VFXをテーマにしました。なぜかと言うと、私自身が次回作でCG・VFXを使いたいと思っていて、技術的な部分でいろいろ疑問や不安があったので、同じような思いをしている人もいるのではないかと、この企画を提案した上で当日の司会も務めることになったのでした。…で、当日になるまで動員はどうなのだろう?と不安だったのですが、開けてびっくり、約50名の方々にご参加頂きました!
今回のゲストは、デジタルマットペインターの林隆之さんとCG/VFXアーティストの近藤勇一さん。林さんは、最近では映画『ゴジラ-1.0』で名を馳せるCG・VFXプロダクション「白組」でマット画を学び、1988年にフリーのマットペインターとして独立された大ベテランです。近藤さんは、2008年頃からCG・VFXを独学で学び、プロの現場で活躍しつつ、インディペンデント映画監督としても作品をつくられている百戦錬磨のアーティスト。ちなみに今年4月の鍋講座にも海外の自主制作SF映画を紹介する上映会「外世界X」のディレクターとしてご登壇頂いています。
※向かって左が林隆之さん、右が近藤勇一さん
講座の初めは、そのお二人のこれまで活動を過去作品の映像を交えて紹介して頂きましたが、一番盛り上がったのは手切りマスクの話。マスクとは「合成やスーパーインポーズのために、画面の一部を見せないように覆ういろんな形状の画像※1」のことですが、グリーンバックで撮影していない場合は、抜きたい箇所をひとつひとつ手で選択してあげなければなりません。そのカットが10秒だとして、作業しなければならないのは、1秒24フレーム計算で240枚!近藤さんは、その作業を「修行・瞑想」と表現していました(笑)。さらに、林さんが始めた当初はデジタルではなく鉛筆…一コマ一コマ鉛筆でなぞって、それをカッターで切り抜くという作業を延々と繰り返していたそうです。今では、AIなどで自動で選択してくれるツールもありますが、例えば「逆光の髪の毛」などは今でも手切りが必要。でも、お二人とも「AIで抜けないカットも、若い頃の修行のおかげで何百フレームでもなんとか出来る」とのことでした(笑)。他にも「実写映像をもとにカメラや被写体の移動量を検出し、CG素材との合成に用いることで違和感なく画像を合成できる※2」マッチムーブや、「高輝度の光があふれる様子から暗部の細かな陰影まで、現実世界に近いレンジの明るさを表現できる画像フォーマット※3」HDRIの話なども出てきて非常に面白かったのですが、ここでは省きます…というか、正確に説明する自信がないので、今回の講座のメイン「このシーン、どうやったらつくれますか?」という質問コーナーの報告に移ります。
※1、2、3は、「CGWORLD」CG用語辞典より
「このシーン、どうやったらつくれますか?」という質問は、事前に映画鍋会員から募ったものです。また当日、会場からも質問があったのですが、サンプル画像がないとイメージが湧きにくいと思うので、このレポートでは著作権的にこのページで掲載しても問題ないサンプルを付けてきた熱心な会員(つまり、私)の質問とゲストお二人の回答について簡単に報告します。ちなみにサンプル画像は、今回のために初めて触った画像生成AI「Midjourney」でつくりました。
【このシーン、どうやったらつくれますか?①】
夜、ビルの屋上に立ち、渋谷スクランブル交差点を見下ろす少女の後ろ姿
スクランブル交差点には車も、人もいない
「少女は実写、背景は実写でもCGでも構わない」という私に対するお二人の回答は、「なるほど!」と思わせてくれるものでした。まず、林さんから提案して頂いたのは、スクランブル交差点のライブカメラ。例えば、コレ。(フリー素材ではないので、使用したい方は配信者にご連絡を!)24時間ライブ配信しているので、深夜帯は人も車もいなく(あるいは、少なく)なる。それを切り貼りすれば、誰もいない渋谷スクランブル交差点が出来上がる!そして、チカチカするネオン等のエフェクトを追加すれば、リアルな映像に!…勿論、新規で撮影できればそれに越したことはないけど、許可取り等が難しい場合はその手があったか!と、私は唸りました。さらに近藤さんは「このMidjourneyの背景にネオンやスモークのエフェクトを足したらどうですか?多少ならカメラも動かせますよ」とさらり。なるほど、その手もあったか!お二人の“インディペンデント映画のための”アイデアは、私の凝り固まった頭をほぐしてくれました。こういう感じの3D都市モデルを使って、『今際の国のアリス』みたいにしなきゃならないのか…と思ってたんですが、その前にやれることはたくさんありました。
【このシーン、どうやったらつくれますか?②】
早朝、住宅街にぽっかり空いた草が生い茂る空き地に女性が仰向けで寝ている
女性を真俯瞰で捉えたドローンカメラがゆっくり下降すると、女性を残して背景が消え、真っ白になる
この質問に対して、林さんは会場に向かって問いかけました。「最近のドローンは、高度と動きを記憶できますか?」。すると、すかさず会場から「できます。モーションコントロールカメラと思っていいです」との声。「だったら、現場で同じ動きで二度撮りましょう。一度目は女性の下にカポックか何かを敷いて白背景。二度目はそのまま草の上で」――そこで私は、「こんな住宅街にぽっかり空いた草原みたいな都合がいい場所ないんですけど…」と弱気な発言。すると林さんは「コインパーキングでもいいんですよ。女性の周囲に人工芝かなんか敷いてもらえれば」。なるほど、そういうことか!と思った私ですが、念のため、女性のみをクロマキースタジオで撮るのはどうかと質問してみました。林さんの答えは「スタジオ撮影だとCM並みの照明技術が必要。予算を考えれば、現場で一発で撮れた方が良い」と、またしても“インディペンデント映画のための”方法論を教えてくれました。そして、「照明は、あとからCGで何とか出来ませんか?」という私の素人にありがちな質問に対しては、近藤さんが「照明は難しい。あとで処理すれば良くなるという感覚でCGは使わない方がいい」と冷静に諭してくれました。
この私の2つの質問以外には、戦争映画の戦闘シーンの爆発エフェクトやクロマキー撮影した人物と野外ロケ映像の合成方法など、様々な質問&話題が飛び交い、予定の2時間では全く時間が足りない、非常に内容の濃い講座となりました。
以上が簡単な報告ですが、この講座、シリーズ企画になりそうな予感です。レポートではその1/100も書き切れず、アーカイブ映像配信も今のところ予定していないので、次回開催の際には、是非、当日会場にお越し下さい。勿論、つくりたいシーンがある方は、バンバン質問を!
(文責:土屋 豊)