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イベントレポート

第23回東京フィルメックス共催イベント【〈世界〉を拓け!国境を越える映画人育成プログラム】レポート

開催日時:2022年11月1日(火)17:30オープン/18:00スタート/20:00終了
会場:有楽町朝日スクエア(定員:60名) 東京都千代田区有楽町2-5-1有楽町マリオン11F

【ゲスト】
ソラヨス・プラパパン/Sorayos PRAPAPAN(映画監督・タイ)
タイ在住映画監督。これまで多くの短編映画はヴェネチア、ロカルノ、ロッテルダム、クレルモンフェランなどの国際映画祭で上映されてきた。初長編作品「アーノルドは模範生」はロカルノ映画祭でプレミア、今年FILMeXにて上映される。

黄インイク/Huang Yin-Yu(映画監督、プロデューサー・台湾)
沖縄在住、台湾出身の映画監督・プロデューサー。東京造形大学大学院修了後、沖縄と台湾を拠点とする映画製作・配給会社「ムーリンプロダクション」及び「木林電影」を設立、映画活動を行う。作品:『緑の牢獄』(2021)、『海の彼方』(2016)。現在国際共同製作『黒の牛』『骨を掘る男』にプロデューサーとして参加、制作中。

福永壮志/Takeshi Fukunaga (映画監督・日本)
初⻑編映画『リベリアの白い血』は、15年にベルリン国際映画祭のパノラマ部門に正式出品され、⻑編二作目の『アイヌモシㇼ』は、20年のトライベッカ映画祭で審査員特別賞、グアナファト国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。長編三作目の『山女』が東京国際映画祭のコンペティション部門に出品される。

神保慶政/Yoshimasa Jimbo(映画監督・日本)
2014年、長編『僕はもうすぐ十一歳になる。』が日本映画監督協会新人賞にノミネート、2021年にはベルリン国際映画祭の人材部門に選出、最新作はイラン・シンガポールとの合作・5ヶ国ロケの長編『オン・ザ・ゼロ・ライン 赤道の上で』(公開準備中)。

谷元浩之/Hiroyuki Tanimoto(VIPO映像事業部チーフプロデューサー・日本)
主なプロデュース作品は、『人間 ningen』(監督 : チャーラ・ゼンジルジ、ギヨーム・ジョヴァネッティ/フランス・日本)2013年トロント国際映画祭WP、『サタンジャワ』 サイレント映画+立体音響コンサート(監督 : ガリン・ヌグロホ(インドネシア)音楽・音響:森永泰弘(日本)/響きあうアジア2019など。2021年からVIPOにて映画制作者の人材育成や海外展開事業に携わっている。

【モデレーター】
木下雄介/Yusuke Kinoshita(映画監督・日本)
2006年PFFスカラシップで監督した長編映画「水の花」がベルリン映画祭ジェネレーション部門で上映、2018年に香港・タイ・台湾との国際共同プロジェクトのオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一編「いたずら同盟」を監督。釜山国際映画祭アジアの窓部門で上映される。

 「はじめて作品が国内の映画祭に選ばれて映画館でもかけてもらったけれど、このあとのキャリアをどう考えていこう……「国際共同製作」はハードルが高そうだし……」。こんな悩みを持っているかもしれない映画監督やプロデューサーにむけて、今回のイベントを企画しました。当日は、日本で数少ない国際的な育成プログラムを行っているTalents TokyoとVIPO Film Labでの経験を中心に、ゲストの皆さんから海外のプログラムが自分のキャリアにどう生かされたかについて率直なお話を聞くことができました。

 まずはTalents Tokyoについて。毎年東京フィルメックス会期中に行われるこのプログラムでは、一週間ほどの期間でアジアの映画作家やプロデューサーが集い、自分の企画のピッチングやそれについての講師からの講評、第一線で活躍するプロフェッショナルからの講義などが行われます。脚本指導やワールド・セールス、配給についてなど、世界を視野にいれて映画を作るための具体的な知識を得ることができることが強みです。タイの映画作家プラパパンさんが7年前に参加したときは次回作のスクリプトを書いている段階で、海外の人に指摘してもらってはじめて自分の国について説明が必要なポイントを知ったそうです。2018年に参加した神保さんは、自作のラフが出来上がっている状態で、フランスの配給会社MK2の方など、一流の業界人に見てもらいフィードバックをもらえたそうです。また、谷元さんが振り返っていたように、各国で様々な状況下で映画を作っている作り手と知り合うことは、彼らの経験から学ぶとともに、これから自分の作品を共に作っていく仲間を得る機会でもあります。このように、国際的な育成プログラムは自分の作品を磨きあげるとともに、将来のための人的ネットワークをつくる場にもなります。

 VIPO Film Labは、2021年からはじまった新しい取り組みで、国際的に活動したいプロデューサーにむけたプログラムです。作品のパッケージングや企画のまとめ方、脚本の分析、海外での宣伝方法などについて学べます。去年と今年で二回参加した黄さんはふだん沖縄に住んでいて、VIPO Film Labは海外の講師による講義をきける貴重な機会だったそうです。また、コロナ禍でなかなか海外に行けない状況で、自分が持っている情報を更新できたことも大きかったとのこと。ドキュメンタリーを中心に活動している黄さんは、劇映画の作り方を知りたくてワークショップに参加したところ、バジェットや法務、作品の権利など、非常に具体的なところから教えてもらったそうです。VIPO Film Lab担当者の谷元さんによれは、参加者は業界に入ったばかりの人からある程度経験のある人まで様々で、プロデューサーとして今後活躍する可能性がある人を参加者として選考しているとのことです。

 また、福永さんをはじめゲストの皆さんからは、カンヌのシネ・フォンダシオンやエルサレム、ウディネ、docs by the seaなど海外のプログラムの参加経験についても共有してもらいました。講師は映画を上から目線で「教える」のではなく、参加者が作家として求めていることを汲んでアドバイスをしてくれること、同じプログラムに受かって時間を共にした参加者のあいだには同級生のような仲間意識ができること、映画作家がどのようにサバイブできるかを他の参加者から具体的に学べることなど、海外のプログラムの様々な利点があげられました。また、映画作家としてのキャリアを考えるうえで、たくさん短編映画を作っていて、それが長編映画の資金を得るための説得材料になったというプラパパンさんのお話や、もしプログラムに落選してもそれはコミュニケーションの始まりであり、次に応募するときにもそのときの経験や履歴書を踏まえてプログラム側が判断してくれるといった神保さんのお話は、これからのキャリアを考えている映画作家にとって貴重なアドバイスだったと思います。

 ここまで当日の内容からいくつか紹介してきましたが、国際的な映画製作の具体的な知識を得ながら自らの作品や思考を言語化し相対化できる場として、なにより世界中の同志と知り合うための絶好の機会として、国際的なワークショップのポイントがお伝えできていたら幸いです。少しでも興味のある方には、今回主に取り上げたTalents TokyoとVIPO Film Labをはじめ、様々な機会を生かして積極的にチャレンジしてほしいと思います。

 最後に、今回のイベントの登壇者が男性のみになってしまったことについて、数名の方々からご指摘を頂きました。真摯に反省して、今後はジェンダー・バランスに注意した企画、運営を心がけていきたいと思います。
(文責:新谷和輝)