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イベントレポート

【レポート・鍋講座vol.24】山口亮の自主上映講座-映画は映画館だけのものじゃない!

ゲスト 山口 亮(映画鍋会員/映画監督)
司 会 土屋 豊(独立映画鍋共同代表/映画監督『タリウム少女の毒殺日記』など)
開 催 2015年7月9日(木)

 映像素材のデジタル化やSNSの普及などにより、手軽に開催できるようになってきた「上映会」。自主上映だけで数十万人を動員する作品も現れ始め、盛り上がりをみせている。カフェや居酒屋、お寺、さらには野外、洞窟まで、あらゆる場所で行われ、上映スタイルもさまざまだ。“自主上映”に着目し、独自の取材を行ってきた山口亮さん(映画鍋会員)が、自主上映を取り巻く最新情報を鍋講座で共有した。(文責・高木)


辞書には載ってない!「自主上映」を定義すると?

 自主上映についての取材を進める中で、山口さんは7~8団体、十数人にインタビューを行ったとのこと。みなさん共通して、答えに困った様子だったのが、一番簡単に思えるこの質問「自主上映とは?定義は?」。山口さんはどう思いますか?と逆に訊かれることも多々あったそう。
 そこで山口さんがネットで調べてみると、はてなキーワード「配給会社に依存せず上映すること」とある。Wikipediaには、「自主上映」ではなく「上映会」という項目で「映画配給会社がロードショーやミニシアターで興行を行うのではなく、有志が自主的に映画を公に向けて上映する会場の形態」と。共通している“既存の映画配給システムにのらずに映画を上映する”という切り口で、山口さんが分類した自主上映の形態がこちら。

1、自主興行
映画の権利を持っている人、一般的には監督などが自ら上映活動を行う形態。海外作品を買い付けて配給している個人や団体もここに分類される。

2、実行委員会形式
配給会社が推奨する形態。上映会に限らず、イベント開催にあたって実行委員会を組織することはよくある。地域性が強い。

3、定期上映会
上映団体の名前とは別に上映会に名前をつけて定期的に開催するスタイル。シネクラブのような映画活動もこれに含まれる。会員制度などを設け、会報の発行、資料収集などをしている場合が多い。会員割引等も。

4、映画祭
自主上映の拡大版とも言えるのが映画祭。国際映画祭から市民団体や個人が主催するものまで規模はさまざま。地域での映画祭が多いが、テーマ(女性、子ども、スポーツなど)を打ち出した映画祭も。


気になる貸出料金 お金はどのくらかかるの?

 作品を借りる側、上映者がまず気になるのが料金。貸出料金(上映料金)は、動員した観客の人数にかかわらず、一定の料金を支払うものと、客単価や歩合を設定し、観客の人数に応じて料金を支払うものがあるとのこと。一定の料金を支払う場合、1日1回の上映に、例えば3万円など、決められた料金が発生する。これに対し、客単価や歩合を設定して、観客数に応じるものは料金に変動がある。また、最近は、配給する側のリスクを減らすため、客単価と歩合の場合にも「最低保証」をつけるケースが増えているらしい。
 細かい条件は作品ごとに違っていて、たとえば上映回数も作品によって違ってくる。山口さん曰く、交渉の余地はあるとのこと。中には例外的な事例で、無償提供されている作品も。  
 「より多くの人に見てほしい」とか「人数より顔が見えるアットホームな環境で」とか、その作品を“どんな人にどんな上映会で届けたいか”が料金体系に大きく関わっている。


配給会社・製作者にとってのメリット・デメリット

 一方、作品を貸し出す側、配給会社や製作者にとって自主上映のメリットは?まずは作品の“公開が早い=より早く観客に届けられる”こと。劇場は半年・1年先まで公開スケジュールが埋まっていることが多く、作品を持っていっても1年後に、と言うのはよくある話。自主上映の場合、作品が完成して上映したい人がいて、場所があればすぐに公開できる。
 そして、収益。劇場公開の場合、上映期間が終了してから観客動員数によって興行精算が行われるので、あらかじめ収益の見込みを立てるのは中々難しい。自主上映は最低保証もあり、ある程度の収益が確定できる。また、集客を上映者が行ってくれる利点も。上映者が上映会に対する思い入れがあり、利益重視ではなく「楽しんで企画・運営すること」を追及していることも、劇場公開とは違った側面だ。
 ただ、もちろんデメリットも。まず自主上映は多くの場合1日1回上映など、規模が小さい。劇場公開は最低でも1週間など、トータルで見ると観客のキャパシティーが断然違ってくる。また、上映者とのやりとりで、想像以上に手間がかかる場合も。自主上映のために事務所を立ち上げて、スタッフを雇っている作品もあるとのこと。
 また、宣伝の面でも難点はある。まず、自主上映のチラシは映画館には置いてもらえないので、映画ファンを対象としている場合、ターゲットにリーチすることが難しくなる。ネットの映画系メディアにも、自主上映はほとんど掲載されないのが現状だ。



で、結局、自主上映って最近どうなの?

 山口さんの取材によると、最近の自主上映を取り巻く状況には、大きく4つの傾向が見られるとのこと。以前はシネクラブなど映画が好きな人の集まりだったが、いまは目的が多様化しているようだ。
 まず、ミニシアターが盛んだった80年代の頃のように、単純に映画が好きで上映会をする、という人はかなり減っている。映画への愛情というより、それぞれの作品に対する愛情の強い人が自主上映を盛り上げているとのこと。なので、思い入れのある作品の上映が終わったら、次に続くことはなく単発開催の場合が多い。
 2つ目に、地元に映画館がないから上映会をやりたい、というケース。この場合、どちらかと言うとインディペンデント系の作品より、都市部のシネコンで公開されている作品が上映されることが多い。
 そして、とくにドキュメンタリーなどの上映活動に言えるのは、映画を通して、問題提起、地域や社会に貢献したい人が多いという状況。同じメッセージを伝えるにも、そのテーマを扱った映画を見せることで共感が高まる場を作り出している。
 最後に、映画をツールとして使って「何かしたい」というイベント系。映画上映はイベントとしては比較的始めやすいこともあり、映画に精通している人だけでなく、音楽やアート関係など「人を集めて何かをしたい」という人たちも好まれている。

 最近は「映画と飲食」という組み合わせが増えているとのことで、カレーを食べながらカレーにまつわる映画を見るとか、映画に関連する食事を地元のレストランとメニュー開発するケースもあるという。劇場の鑑賞料より高い場合もあるが、映画を見るだけでなく「気分を味わえる」ために人気とのこと。また、映画とワークショップの組み合わせや、映画を上映しながら監督や出演者が同時にトークする「ライブコメンタリー」、お寺や海辺など、普段とは違う雰囲気を味わえる上映会も人気があるそうだ。


自主上映に必要なこと、成功の秘訣

 上映スタイルも目的も多様だが、自主上映にまず必要なのは会場。設備が整っていて、安価で、初めての上映者にも使い勝手がいいのはやはり公民館や市民ホール。でも予約は取り難い。貸館をしている映画館もある。イベントスペースやライブハウスはプロジェクターや音響設備が整っていて、機材持ち込みの必要がない。カフェ、バーなど飲食店の場合は スピーカーも含め機材が必要になるが、 飲食とセットでの上映スタイルが可能だ。その他、お寺、古民家、銭湯、無人島、洞窟…屋内でも屋外でもスクリーン、プロジェクター、プレイヤー、スピーカーがあればどこでも上映会場になり得る。ただ、もちろん上映環境に差が出るので、要注意。
 次に、スタッフ。 ひとりで企画する場合もあるが、上映会当日は会場で人員が必要となる。上映者によっては、ネットでボランティアを募集し、地域の人々と共に企画運営する場合もあると言う。
 そして、集客に関しては人脈と、ローカルメディアへの露出が重要とのこと。FacebookなどSNSをうまく活用して上映会自体にファンを集めていくこともできる。

 自主上映を広く展開していくには事務局を整え、常に誰かが対応できるという体制が理想だが、誰もができるわけでない。まずは作品の性質を見極め、パッケージ化や業界を限定することで、ターゲットを絞り、 マーケティングを行っていくと効果的だそう。「自主上映が成功している会社の話を聞くと、案外普通のことをやっている。逆にいうと、これまで自主上映活動には通常のマーケティングなど、ビジネス的なことが行われてこなかったことがわかった。たとえば本屋にあるマーケティングとかセールスの本を参考に基本的なことをするだけでも効果的。一般のビジネスで商品を売るような感覚。」
 そして、口コミ。これは、 映画を見た人がどう動くかがキーとなる。上映会の際に「あなたもこうやればいいですよ」と伝えたり、上映を迷っている人には試写用のDVDを送ったり、モチベーションを上げていくことで次につながる可能性が高まるそう。


自主上映のこれから

 山口さんが取材をする中で驚いたのは「映画を見るのと、見せるのと、どっちが楽しい?」と質問した際、返ってきたこの発言。「見ることは我慢できるけど、見せることは我慢できない」。映画を応援したい、広めたい、という使命感というより、上映者が「楽しいからやっている」「楽しむためにやっている」ことが発見だったと言う。また、自主上映の発展系として拠点を持つ人々も増えているとのこと。地元の空き店舗やスペースを活用して、映画だけでなく、飲食や書籍、ワークショップなど、いろんな要素を複合的に取り入れ、人が集まりやすい環境を作ることが大事と考えているようだ。地域に密着しつつ、映画を核として使いながら、新しいスタイルが生まれている。

 映画を上映・公開するのは製作者や配給会社だけでなく、「観客」が「上映者」に変わるのが自主上映。観客がどんどん上映者に変わり、自主上映が広がることを目指して、山口さんは自主上映の映画を作ろうと思ったとのこと。また、自主上映の情報が集約されたサイトや媒体がないことについて言及し、今後の自主上映の盛り上がりとともに、そういった情報集約の必要性も指摘した。