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イベントレポート

【レポート:鍋講座Vol. 29】観客を創る、育てる~製作・興行の外側から考える、これからの映画イベントの形とは?

ゲスト
柳下 修平(シネマズby松竹編集長/「映画ファンの集い」主催)
有坂 塁(移動映画館 キノ・イグルー/「あなたのために映画をえらびます。」企画・運営)
神原 健太朗(三鷹シネマ倶楽部/「映画遠足」企画・運営)
司 会 山口 亮(映画鍋会員)

今回は映画鍋会員の山口亮さんが初めて企画した鍋講座。会場の3分の1が鍋講座初参加!映画の製作、配給、宣伝という枠組みの外側から、「観客を創造し、育てる」取り組みとして様々なイベントを企画・運営している3名のゲストとともに、これからの映画イベントの可能性を探った。


「映画ファンの集い」きっかけは“ピザ”、いまでは100人規模の映画イベントに


 柳下修平さんはもともとCinema A La Carte(http://www.cinemawith-alc.com/)という映画ブログを運営する映画ブロガー。「映画ファンで集まって、ピザを食べながら映画を観て、語ったら楽しそう」2014年の第86回米アカデミー賞授賞式で司会のエレン・デジェネレスが、式中に宅配ピザを注文し出席者に配る、という場面を見たときのこのつぶやきからスタートしたイベントが「映画ファンピザ会」。最初から戦略的に企画したわけではなく、数回は飲み会の形で開催し、2014年8月から「映画ファンの集い」として本格的に活動が始まった。「映画が好き」「映画の話をしたい」「映画の話を聴きたい」、そんな映画ファン同士がトークを楽しむイベントだ。参加費は4000円で飲み物と食事付。

 場所はコ・ワーキングスペースやカフェなどで、最大規模は六本木ヒルズにあるGoogle社のカフェテリア。2014年11月頃から参加者が100人を超えるようになった。“映画ファンがリアルで語れる場”として、関心層にうまくアプローチできたようだ。リピーターが多く、女性も多い。人が人を呼び、今では参加募集開始から1週間ほどで定員に達するとのこと。年齢層も幅広く、20代を中心に、30~50代が参加し、世代を超えて話が盛り上がる。

 それまで自分でイベントをしたこともなかったと言う柳下さん。第1回は3人の仲間と、2回目からは「映画について語ろう会」の方に手伝ってもらいながら、参加者からボランティアを募ったり、1周年でスタッフを公募したりしながらこれまで16ヶ月連続で開催してきた。


「キノ・イグルー」映画と実体験がシンクロするようなイベント


 子どものころ観た「グーニーズ」と「E.T.」のせいで映画が嫌いだったと言う有坂塁さん。その後、映画嫌いから映画好きになった決定的な瞬間を経て、ビデオ屋でのバイトを経験し映画にのめり込んだ。
そんな有坂さんの運営する「キノ・イグルー」(http://kinoiglu.com/)は移動映画館として、東京を拠点にイベントを開催している。会場ありきで、その会場でしかできない体験を提供。例えば、東京国立博物館では屋外に設置したスクリーンで「時をかける少女」を上映。劇中に同会場が登場することもあり、一晩に4500人が来場したと言う。また1泊2日で企画した初島でのイベントでは“島が印象的な映画”「冒険者たち」や「ムーンライズ・キングダム」を上映。その体験自体が映画のような企画や、映画と実体験がシンクロするようなイベントを構成している。ちなみに「キノ・イグルー」という名前は、フィンランドの映画監督アキ・カウリスマキに手紙を書いてつけてもらった名前とのこと!

 今年から始まった新たなプロジェクトは「あなたのために映画をえらびます。」1日6人限定の“個人面談”だ。代々木上原のギャラリーにて、月一回のペースで開催している。日本だけでも年間800本、10年で8000本―と映画がどんどん増える時代の中で、「TSUTAYAに行っても何を借りていいかわからない」という声をよく聞いていた有坂さん。一対一のカウンセリングのような形で、ひとり1時間を費やし、その人の人となりがわかるような質問への回答から5本の映画を選んでいく。

 きっかけはビデオ屋で働いていた頃の、お客さんとのやりとり。「泣ける映画を教えて、と聞かれたとして、自分のおすすめを押し付けるのは苦手だな、と。その人の中にあるものを引き出して映画を選びたい。15年くらい前からやってきて、それをイベント化したかった。」紹介する映画は人によってバラバラで、ハリウッド大作もあればミニシアター系も。カテゴライズでは考えず、その人との対話の中から感触で選んでいると言う。料金は3,000円。


「映画遠足」映画館で、みんなで映画を観る


 「ふたりのイベントの写真を見て圧倒されてしまった、全然系統が違うので・・・」と語る神原健太朗さんは2012年3月に脱サラし、映画に関わる仕事をスタート。現在はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭のプログラマーとして働く傍ら、KAWASAKIしんゆり映画祭やしたまちコメディ映画祭in台東、こども映画教室、フィルムコミッションのお手伝いなど、さまざまな取り組みに関わっている。

 神原さんの地元・三鷹市は1990年に三鷹オスカーが閉館。現在も市内に映画館はひとつもない。「三鷹にもう一度映画館を作りたい!」という目標を掲げ、「三鷹コミュニティシネマ映画祭」(http://cinema.mall.mitaka.ne.jp/)が立ち上がり、神原さんもサラリーマン時代から関わってきた。この、「三鷹コミュニティシネマ映画祭」の実行委員の有志で、“三鷹に映画館を作りたいと言っても、お金も場所もない。まずは仲間を集めよう”と始まったのが「三鷹シネマ倶楽部」。「映画遠足」はこの「三鷹シネマ倶楽部」の中の活動である。

 「映画遠足」は参加者みんなで映画館に行き、映画を観る、その後場所を移して映画の話をする、という非常にシンプルなイベントだ。第1回は2012年12月、吉祥寺プラザでの「007 スカイフォール」。銀座シネパトス、吉祥寺バウスシアターなど閉館前の映画館にも足を運んだ。参加者は多いときは36人、少ないときは2人ほど。ロケ地を見に行ったり、映写室を見学したり、監督や出演者、映画関係者が飲み会に参加することもあると言う。

 「三鷹に映画館を!」という大きな目標を持ちつつ、どんな人も気軽に参加でき、映画について語り、楽しめる小さなイベントが「映画遠足」。これまで30回以上開催されている。最近では“初日に来てほしい”“二週目に”と映画館や監督から声がかかることもあると言う。


集客・宣伝と運営~映画イベント運営のポイントは?

 
 それぞれタイプの違う映画イベント。告知や集客もやり方はバラバラだ。「映画ファンの集い」はネット環境をフルに活用し、ブログや、Facebook・TwitterなどのSNSで宣伝。チケット販売をPeatix(グループ運営&イベント管理サービス)で行っている。Peatixは一度でも利用し、イベントに参加すると、新しいイベントの告知が自動で送られる機能も。リピーターが多いイベントに成長したのは、こういった戦略的な部分が活かされた結果かもしれない。また、自分たちではリーチできない人にアプローチするため、映画に興味のない人気ブロガーをイベントに招待し、記事を書いてもらうこともあると言う。

 「キノ・イグルー」は基本的にHPとメールマガジン、フライヤーで告知。有坂さんはSNSが苦手で、Instagramをつい3ヶ月前に始めたばかり。「あなたのために映画をえらびます。」に関しては、月に1日だけ、しかも6人限定のイベントということもあり、HPで募集を開始して30分で埋まることも。移動映画館に関しては、HPや雑誌で知った人やイベント参加者(個人、企業、行政)から「うちでも映画できますか?」という問い合わせから始まる。イベントを開催した会場から“合いそうな”知り合いを紹介してもらうことも多く、営業は一切していない。

 「映画遠足」はHPなどは持たず、Facebookでの告知がほとんどで、たまにTwitterを使っている。毎回Facebookのイベントページを立ち上げ、参加者を募っている。経費のかかるイベントではなく、収支は重要視していない分、独特の悩みも。「ミニシアターの場合ネットでチケットが買えないので、混んでいる映画は2~3時間前に行って10人分買ったり。でも準備は飲み屋の予約くらい。困るのはドタキャンとドタ参加。」映画祭のプログラムをしている神原さんは、「映画遠足は究極のプログラミング」と言う。どの映画館にどの映画を見に行くか、その都度タイミングを考えるのが面白い、とのこと。


イベントの手ごたえ・今後の取り組みについて


 柳下さんの「映画ファンの集い」は、イベントで刺激を受け、おすすめ作品を書きとめて帰る人も。リピーターの人はその月の話題作を見てからイベントに参加することが多く、旧作も新作も活性化していると感じている。また、新たな企画として、『天空の城ラピュタ』や『魔女の宅急便』に出てくるジブリ映画の料理や、パリを舞台にした『アメリ』や『レミーのおいしいレストラン』に出てくる料理などが食べられるイベント「映画の食事会」も始動。雑談で企画が始まったそうだ。

 有坂さんは「イベントに来ていたお客さんと、劇場でばったり会ったりするようになった。」と言う。今後は“映画を上映しない上映イベント”や“オリジナル、リメイク、原作あり、がはっきりわかる映画祭”をしたい、と思索中だ。「みんな本当は映画が好き。スイッチが入れば自発的に映画館に行くと信じている。普段映画を観ない人に対しても、クリエイティブな視点でみんなのスイッチをオンにできたら。」と語った。

 「映画遠足」に参加する人の中には、昔はよく映画を観ていたけど・・・という人が、参加することで映画を観る習慣が蘇った人もいる。ミニシアターに足を運ぶようになった、という人も。神原さんは、自発的に映画館に行くようになる人も増えていると実感している。「映画遠足」のほかにも、好きな映画のプレゼン大会「推しシネバトル」や三鷹オスカーがもしまだ営業していたら、というコンセプトでプログラムを紹介する「バーチャル三鷹オスカー」など、さまざまな取り組みを広げている。

 イベント終盤では、ネットで話題となった「日本映画レベル低すぎ」発言について質問が。柳下さんは「日本映画がつまらないかは一概に決められることではない。作り手の問題だけではなく、観客の質も影響すると思う。観客側の問題も考えていくべき。」と発言した。続いて有坂さんは、「面白い映画もたくさんあるし、若いお客さんもちゃんといる。そうじゃない上の世代が文句を言う風潮を感じる。映画の見方はひとつじゃない。」、神原さんは「もともと洋画が好きだったが今は日本映画。どうにかしたいという思いもあり、映画遠足もそうゆう部分がある。 日本映画を応援したい。」と語った。

 また、最後に有坂さんはビデオ屋で働いていたときのエピソードを例に映画業界の外側で活動するやりがいについて言及。「ビデオ屋で新人が入ると、毎回好きな映画を聞かれて、本当はアルマゲドンが好きなのにゴダールって言わなきゃ行けない雰囲気があった。トリュフォーって言うと、いいね~とか。好きな映画を言うと、“あんなの映画じゃない”と平気で言う人も。こうゆう、否定される構造をどうにかしたい、と思って。映画業界の外側で面白いことをやって、映画業界から求められるまで頑張ろうと。」と締めくくった。


「参加した人がイベントを真似したら?」という質問に対し、写真右から
有坂さん「個人面談をやりたい人はいないと思うけど・・・移動映画館をやりたい、と相談はある。同じ形でやったら本質で勝負することになるので面白い。」
柳下さん「刺激を受けてやりたいと思ってもらえることは嬉しいけど、真似ても面白くない。満足の声、お叱りの声を受けとめて、参加者に愛してもらえるイベントを目指してほしい。」
神原さん「ぜひやってほしい。誰でもできるので!映画遠足の名前も使ってほしい。」
写真左は司会の山口亮さん

(レポート:高木祥衣)

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