【鍋講座 vol.13】世界の映画行政を知る②「韓国編」 藤岡朝子レポート
日時: 2013年12月23日(祝・月)19:00~21:00 下北沢アレイホール
【ゲスト講師】鄭仁善 チョン・インソン(韓国映画振興委員会(KOFIC) 日本通信員)
【ファシリテーター】深田晃司(映画監督『ほとりの朔子』『歓待』)
忘年会目当ての飲兵衛? 祝日が暇な寂しんぼフリーター?
いやいや、今回の鍋講座が50名もの来場者を集めたのは、韓国映画の裏事情から何か盗んでやろうと目をギラギラさせたインディペンデント映画魂だろう。
情報の詰まった濃い2時間は、非常に刺激的で実にワクワクさせられた。
ゲストのチョンさんは、KOFICの誕生から韓国映画支援の歴史をひもといていった。その中に、私がワクワクしたことが幾つもあった。
1 対米のFTA交渉の中で、韓国映画を保護してきたスクリーンクオータ制が脅かされる、と知った映画人たちが自らの経済を危惧して立ちあがり、映画発展基金を作らせた、ということ。韓国映画を代表するパク・チャヌク監督がベルリン映画祭で街頭に立ちデモした、その身を呈する姿勢に感動する。
2 振興策の中身を決めていく段階で「飴玉をねだるのではなく、堂々と芝生球場を要求する!」という文言が力を持ったこと。目先の作品ごとの助成金(小銭)ではなく、末永く映画文化をはぐくむ環境をきちんと見据えている。
3 2001年に優れた芸術映画の再上映を要求する「ワ・ラ・ナ・ゴ運動」が、観客主導の運動として沸き起こり、アート系映画館の支援に結び付いたこと。映画の観客自身が「我らが見たいのだ!」と、既存の興行に異議申し立てをしたとは、なんという民主的パワー。
4 KOFICは配給流通支援もしている、ということ。封切にかかる補助や自主上映の上映支援もしている。公共上映ライブラリーまでも。そしてIndie Space、のちにIndie Plusとなる多様性映画の専門館や芸術映画のシネマテークまでがアッという間に作られ、その経営をめぐって試行錯誤を重ねていくそのスピード。失敗しても、ケンチャナヨ、という大胆さを感じる。
5 いちばんワクワクしたのは、チョンさんの冷静な分析かもしれない。インディーズは本当に成長しているのか、観客は増えているのか? 政権が変わるごとに振り回されるのはまずいのではないか? 政治からのKOFICの独立性を誰が監視するのか? ポイントとしては、映画に対する関心の高さが重要なのではないか?
講演のあと活発な質疑応答が続き、日韓との比較を基軸に具体的な話に、日本でも何かできるかも、と心躍った。韓国では、映画館に行くという社会的行為が、映画を最も大衆的な文化たらしめていて、その結果、映画に対する関心と世論が大きいということ。「大衆的文化」と「多様性の理念」が一致しているシステムを、韓国人は作っているのだ。
鍋講座で聞いたフランスの映画行政の例では感じなかった、作ろうと思えば作れるのだ!という「意思の力」に、今回あらためて感動した。『フィールド・オブ・ドリームス』だ!
そして、会場からは幾つかヒントが出た。「省庁に対する要請の方法を研究すべし」「変えたいと思っている大企業の社長もいるから、近付いて味方を増やし、そこから陳情へ」「商業として回していける構造が必要だ」
このあたりのアイディアを、今後独立映画鍋でアクション・プランを立てて具体的にやっていくことに期待できるかも!と明るい気持ちになった。その楽観は、ハリウッド映画のようではあるが、そんな可能性にスカッとした感動を私は覚えてしまった、今回の年末の鍋講座であった。
(文責:藤岡朝子)
当日、講演部分の記録動画