鍋講座vol.7「クラウドファンディングは独立映画を救うのか!?」レポート
【鍋講座vol.7 クラウドファンディングを知る②】
CFは独立映画を救うのか!?
2013年3月26日(火)19:30~21:30 下北沢アレイホール
鍋講座vol.1「クラウドファンディングを知る①」ではクラウドファンディング自体の仕組み・成り立ちについてゲストにmotion gallery大高健志氏をお招きして語られましたが、それに続く②では実際にクラウドファンディングを利用した方々を招いて、実際の体験談を語っていただきました。後半は各々の体験を聞いた上でディスカッションが自然発生的に展開され、予定時刻を超過するほど盛り上がりを見せました。
▲ファシリテーター
:高木祥衣(Our Planet TV)以下高木
▲パネリスト
:大高健志(motion gallery)以下大高
:向井麻理(プロデューサー/『さまよう春(仮)』〈監督:海南友子〉)以下向井
:坂上 香(映画監督/『ライファーズ 終身刑を超えて』)以下坂上
:藤岡朝子(山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局ディレクター)以下藤岡
:深田晃司(映画監督/『歓待』『ほとりの朔子』)以下深田
:土屋 豊(映画監督/『タリウム少女の毒殺日記』)以下土屋
:(ビデオレターにて)岩名雅記(映画監督『うらぎりひめ』)以下岩名
前半部分は実際に目標金額を達成した方々からの企画説明と苦労話が展開されました。
高木:今回は目標金額達成者の皆さんに成功者の裏側を遠慮なく話していただきたいと思います。まずは、独立映画鍋キックオフイベントで人気投票一位となった藤岡さんからお願いします。
藤岡:私の場合は作品ではなく若手ドキュメンタリー作家とイーッカ・ヴェヘカラハティ氏との対話のイベントについての寄付を募りました。目標金額は10万円でコレクター37人のうち全く知らない人は6人いました。映画鍋としても、SNSにしても、クラウドファンディングにしても初心者で、さらにイベントの企画なので期日が決まってもいたので、大変でした。ただ、若手制作者育成という目的があったので公共性を訴えることができました。また、別の上映イベントでは、山形という地元で、地縁の緊密なコミュニティだと寄付の集まりが良いのだな、と感じました。
高木:続いて、最高額を達成された土屋さんです。
土屋:『タリウム少女の毒殺日記』の配給・宣伝の費用、最高額200万円をクリアしました。(藤岡さんからあった)公共性という点で言う点ではアピールできず苦労しました。1000円から30万円まで金額設定をして、最も多かったのが5000円と1万円でそれぞれ全体の3割になりました。人数の5割は知人でしたが、4割は知らない方でした。残りの1割はTIFF:東京国際映画祭での上映後に映画を知った人からの寄付でした。寄付についての告知スケジュールなどもう少し考えて置くべきだったと反省しています。それと特典として劇場前売り券を付けたのですが、劇場にその点の打ち合わせをしておかなかったので、そういった特典を付ける場合は前もって劇場との打ち合わせが必要だと感じました。
《ここで、『うらぎりひめ』の監督岩名雅記さん(以下岩名)からのビデオレターを上映》
岩名:今回は映画館ではなく都内アートホールで9日間25回の限定上映でした。幸いにも目標金額59万を達成出来ましたが、58名のコレクターのうち、約95%が友人・知人でした。未知の方々に公募を呼びかけるというクラウドファンディングの趣旨からすると今後への課題を残しました。上映を決めてから[映画鍋]に参加、短期間で寄付を募った事が理由かも知れません。また、私と同世代(60代後半)という年齢的な事情から皆さんネットに疎くmotion galleryへのログインやネット入金に関して不案内で、27名が銀行入金でした。幸いにも目標金額に達することができましたが、ネットに不慣れな人間に対して表紙部分にログインの方法を説明する欄を設ける等ケアが必要であると感じました。現在関西、九州、北海道など6都市での上映の話があり、都内映画館さんからも再上映のプロポーズをいただきました。
深田:『さようなら』という映画についての寄付を募りました。他の方と違う点が現在まだ企画段階でしかないということです。クラウドファンディングの利用を考えたのはインディペンデントの映画製作の現状として資金の自前の持ち出しがどうしても起きてしまう中で、少しでも“手弁当感”を減らし、落ち着いた制作環境を整えたいと思ったからです。また、財源確保の透明性も高めたいとも思いました。とにかく少ない予算で慌てて撮らないこと、が今回の企画のコンセプトで、じっくり時間を掛けて資金を集めたいと思っています。ただし、今回のファンディング期間の途中から別の作品の撮影に入ってしまったため一時的に寄付の告知が片手間にしかできないことになってしまいました。その撮影の終了後に改めてプレスリリース・資料等を作成したところ反響があり、シネマトゥデイに取り上げられ、締め切り前最後の一週間では知らない方からの寄付もありました。これをもう少し早い段階で始められていたら、結果もまた多少は違っただろうと反省しています。(岩名さんのおっしゃっていたように)ネットでの入金にハードルを感じる人は少なからずいるように思いました。一方で知らない人から寄付をいただくことは新しいコミュニケーションが生まれ、楽しく感じました。また、motion galleryに出すことで知人に寄付を募る際にも看板が出来るというか、気楽にやりやすくなりました。なにぶんこの企画はクランクイン前なので、特典として出せるものが少なく今は製作状況を報告するメールを定期的に出している程度です。私自身の反省で言えば、もう少しmotion galleryの機能について事前に理解をしておくべきだったと思います。別の財源(他の寄付サイト、出資者の募集)も予定していますが、今後出資を募ったとしても、最初にクラウドファンディングである程度のお金を集めていれば、それだけ作家の自由が広がるのではと考えます。また、長期的な展望としては日本に寄付文化をもっと日常的に定着させていかなければいけないなと思います。
向井:私の場合はネットについても不慣れで、motion galleryとの連動することで便利なFacebookについても一から始めるようなものでした。また、募集期間が短期間ということもあって、大変苦労しました。motion galleryの利用を決めたのは目標金額に届かかなくても集まった額を入金していただけるという点です。そういう部分では安心感がありました。結果的に3割は知人、7割は知らない方ということになり、知らない方からの支援はとてもあたたかく感じました。苦労した点ではもともと関連書籍の出版に併せて告知を始める予定でしたが、出版の時期が遅れてしまい連動しきれなかったことがあります。他に、京都を拠点としているので、在京ではないことの不便さも感じました。ただし(作品のテーマである)移住妊婦の方たちのコミュニティが京都にもあり、それがメディアに取り上げられ、それが7割の人を集めた結果につながっていると思います。ネットバンキングについての苦労はこちらにもありました。このあたりをスムーズに(motion gallery側から)できれば利便性が上がると思います。大口の寄付者への特典についても細やかな配慮が必要だと感じました。(土屋さんからは前売り券を特典として出すときに劇場との調整が必要という話があって、そこは注意点だという話がありましたが)前売り券が既にこれだけ出ているということは劇場へのアピールにもなるのではないかと思います。製作中に寄付が集まることで精神的にとても支えになりました。
坂上:事前の勉強は必要だと感じました。私は製作に入ってから8年が経っていて、さらに内容や環境も二転三転して大変でした。海外での追加撮影、プロのクルーの登用や仕上げのスタジオ費などもあってドキュメンタリーといえども費用がかかっています。今回の目標金額はかなり悩みましたが、経費に近い形で設定したので、大きな金額になりました。扱うテーマの兼ね合いもあって助成金はほとんど選考から落ちました。また、3・11以降は3・11をテーマにしたものでないと助成の対象になりにくいという現象も起きていました。海外では少額寄付の文化が定着していたのでクラウドファンディングの利用についての抵抗はなかったものの、映画企画開始当時にすでに寄付してくれていた方々へのアカウンタビリティについて考えてしまいました。結果的には予算が底をついてしまったことを説明するということで踏み切ることにしました。今回は事前の準備としては特典として可能なもの不可能なものしっかりと考えました。このところは『ハーブ&ドロシー』の成功例が大変参考になりました。寄付を募り初めて、早い段階で大口の寄付があったものの、それが逆に頭打ち感を(寄付を考える人たちに)与えてしまわないかと思ってしまうこともありました。知人以外への寄付の拡大の方法を模索しましたが、作品のテーマや自身のキャリアなどから、大手メディアに扱ってもらうことは難しいという判断がありました。前作でも、チラシで寄付を募ったり、試写会でカンパという顔の見える範囲のほうが手応えがありました。ネットバンキングについては私も利便性の向上が必要だと思います 。
5人の体験談を得てからのディスカッションは時間的に制約があったものの非常に実直で現実に沿った言葉が飛び交いました。
向井:未達成のものには“たとえ、額面が大きくてもここまでしか集まらなかったのか?”
という見え方されてしまいそうで不安です。
土屋:motion galleryを通さず別ルートで個人口座に入金して頂いた寄付金をmotion galleryの寄付金額に合算するとmotion galleryへの手数料は増えてしまうが、寄付の状況の見え方としては良かった。
坂上:早い段階で目標金額が達成してしまうと、それ以上の寄付が止まってしまわないかと思ってしまいました。
これらの発言を受けて前半から聞き手役に回っていたmotion galleryの大高さんがマイクを取られました。
大高:目標金額の設定については、“このくらいの金額は集まるだろう”という額面の120%ぐらいの設定がいいと思います。ゆるキャラものは特典グッズの魅力のパワーということもあってか、到達金額が目標額の300%を超えたケースもありますが。目標金額の設定は難しく、例えば500万という大きな金額が集まったとしても、設定金額が5000万であった場合は1割しか集まらなかったというふうに見えてしまいます。
motion galleryのサイトでアカウントを作らずに直接銀行に入金して頂く場合だと、どの企画への寄付金なのかが把握できない為、ネットを利用していただく前提は必須となりますが、ネットへの不安感がまだ日本にはあるので、一層の銀行入金のユーザビリティ向上についても検討していきます。他にも未整理な部分があるので各事例からフィードバックの必要性を感じています。
(映画鍋とコンテンツパートナーとなったことについて)映画鍋と連動することで、企画への安心感が増していると思います。また企画への意欲や情熱もより一層感じられています。企画が応援されている姿の可視化を保つことは続けていきたい。
坂上:利用する側から見てもアップデート機能などの利用方法に改善が必要だと感じます 。
深田:寄付を募る側、motion galleryも告知の効果の分析は必要だと強く感じます。何を経て寄付に繋がったかは今後の参考にもなると思う。
前売り券については(土屋さんのマイナス効果、向井さんのプラス効果)色々と話があったが、劇場公開をするということで、こちら側の覚悟と意志の表示になるのではと思います。
ここで、出席者からの感想と質問が出ました。
男性:もっと身内のカンパに近いものかと思いましたが、不特定多数の人間からの寄付が多いことには驚きました。motion galleryまたは各企画への不特定多数への告知やアクセス者の把握はされているのでしょうか?また、可能なのでしょうか?
大高:サイトへのアクセスについては(寄付につながらない)ただサイトを見るだけの人もいるので、アクセス数をただ増やすということには力点は置いていません。寄付をする安心感を持ってもらうために、近しい人々を介した顔の見える繋がりを築くことを奨励しています。不特定多数の人々に対してもイベント等で自身が前に出て相手に近づき、信頼性とパッションを見せられるかが鍵でしょう。
向井:企画へのアクセス数は気にはなりましたが、企画の公式サイトを介してmotion galleryへ繋がるようにしたので、ある程度の把握は出来ました。企画のFacebookページの“いいね”は50前後ですが、motion galleryの企画の“いいね”の数は1000を超えたので、大きな参考にもなり、また外部からの寄付にも繋がったと思います。
また、新聞などに取り上げられた際にはWEB版への掲載と、掲載の際のリンクを貼ってもらうことに念を入れた方がいいと思います。ネットの利用方法はまだまだ研究していかなくてはと思っています。
ここで1400万円という高額目標を達成した『ハーブ&ドロシー』と絡めた質問が。
男性:『ハーブ&ドロシー』では数人の人間が、数ヶ月間ほぼ専任状態でクラウドファンディングに力を入れたという話を聞きましたが、みなさんの場合はどうでしたか?
深田:自分の場合は一人で進めました、ただ先程も言ったとおり間で別の作品の撮影が入ってしまったために、諸々の対応に難がありました。現在継続的に行っている、アメリカのIndiegogoの方は、主演のブライアリー・ロングさんを中心に進めています。
藤岡:一人で進めました、対応しきれないところもありました。
向井:一人で進めましたが、コンサルタント料を支払ってプロの支援も受けました。後半からは対応が出来ていったと思います。できるならネット専任の人間が必要だと思います。
坂上:始める前の2週間ほど、集中して勉強をしました。また、文面などについては映画畑ではない、複数の友人に読んでもらったりしました。
土屋:岩名さんも、経験のある人間がいると楽だと仰ってました。
深田:その人のそれまでのキャリアがストレートに反映されるので、若手の方は経験者からのアドバイスや協力があると助かると思います。
土屋:最初に“資金がいかに必要であるか”ということに説得力を持たせようとしましたが、一部から疑問の声もあり、公共性・社会性についての説明も必要だと感じました。寄付者に寄付をすることの意義をはっきりとさせなくてはいけないのだと感じました。
大高:若手作家が経験者から協力を受けることは必要だと思います。
深田:クラウドファンディングの勉強会のようなもの必要だと思います。日本人のメンタリティとして、顔が見えないままというのは不向きなのでイベントなどは効果が大きいのではないでしょうか
最後に土屋監督から映画鍋とmotion galleryがコンテンツパートナーとなっていることで、
motion galleryのサイト以外でも映画鍋関連のサイト、印刷物に告知が出来ることの説明がされたところで時間切れとなりました。実際に使われた方々の生の感想が聞けたので、今後の利用に反映できる部分も多かったのではないでしょうか?
(文責 村松健太郎)