鍋講座「Vol. 2世界の独立映画事情NY編!!」レポート 〜インディペンデント映画市場を支えるIFPの活動について〜
映画鍋講座の第二回は、「世界の独立映画事情①」と題して、ニューヨークのインディペンデント・フィルムメーカー・プロジェクト、通称IFPの活動内容を、実際にニューヨークで映画を制作してこられた舩橋淳氏にお話を伺う形になりました。
ハリウッドを擁する映画大国アメリカの中において、ニューヨークはインディペンデントなアート系映画が数多く制作され、多くの有名な映画作家を輩出し続けています。そのNYのインディペンデント映画を支える中心的な存在がIFPであり、その活動内容を詳しく知り、日本におけるインディペンデント映画支援をどのように形作っていけば良いかを議論するというのが今回の講座の目的です。
ゲストスピーカーは映画監督の舩橋淳氏。舩橋氏はNYに10年間滞在され、NYのビジュアルアーツ系の学校で映画製作を学び、処女作「Echoes」をもってIFPのマーケットプログラムに参加。そこから映画祭への出品は配給先との出会いなど、多くの機会を得た経験を基にIFPの活動内容について語っていただきました。
舩橋監督のTwitterアカウントはこちら。
https://twitter.com/cowtown11211
【IFPとは?】
まず、IFP(Independent Filmmaker Project)とはどういう組織なのでしょうか?
IFPの設立は1979年に遡る。舩橋氏曰く当初はインディペンデント映画作家を支援する名目で、NY映画祭の一企画として開催されたのが始まりとのこと。映画大国アメリカの中においても、独立系映画作家の支援団体としては、最古の歴史を持ち、(現在ではNYを中心に)最大規模を誇り、公式サイトによると現在では約1万人の会員となっています。(http://bquot.com/ede)
公式サイト:http://www.ifp.org/
公式サイトによるとその立ち上げから現在にいたるまでに7,000本以上の映画をサポートし、2万人以上の映画作家たちに様々なノウハウやリソースを提供してきたそう。(http://bquot.com/edf)
広く開かれた形でインディペンデント映画作家の支援を標榜しており、会員になればだれでも多くのベネフィットを受けることができ、さまざまなリソースにアクセスできます。
またIndependent Film Weekというショーケース(舩橋氏がNY在住当時はIFPマーケットと呼ばれていました)を開催しており、お金を払いさえすれば、だれでも自身の作品を上映することができます。
非営利団体であるが、映画製作者だけでなく、映画ファンや投資家なども参加しており、互助会のような雰囲気の団体であると舩橋氏は言います。
79年に設立された当時、ニューヨークにはフィルムメーカーが溢れており、自作を上映する機会を欲していた人が多かったという。そこで、IFPマーケットのようなショーケースを開催し、誰でも有料で参加して上映の機会を設けようというのが発端であったとのこと。
最初はなかなか大きな注目を集めることができなかったが、80年代に入ってからは長編一作目だけを対象にした「ファーストフィルムアワード」を設立。第一回目の受賞者はスパイク・リーで、そうした後の大物になる作家が登場するにつれて、IFPは新しい才能の発掘の場として徐々に知名度を上げ、大きくなっていったということです。他にもエドワード・バーンズやラリー・クラークなども過去に受賞経験があります。
【IFPの活動内容】
IFPの活動内容は多岐にわたる。以下のようなプログラムを開催しています。(http://www.ifp.org/programs)
■ インディペンデント・フィルム・ウィーク(IFPマーケット)
■ インディペンデント・フィルムメーカー・ラボ
■ ゴッサム・インディペンデントフィルムアワードの開催
などなど
■ Independent Film Weekについて
まず上述したようにIFPはIndependent Film Weekと呼ばれる自由参加型のショーケースを開催しています。舩橋氏がNYに在住だった頃はIFPマーケットという名称で、ダウンタウンの中心にあるアンジェリカフィルムセンターを貸し切り、6つのスクリーンで連日インディペンデント作家の映画が上映されていました。名称を変更した現在ではさらに規模が拡大しているとのこと。そこを訪れる観客は主に業界人で、映画祭のディレクターや、バイヤー、配給会社の人間や投資家など様々な業界関係者が訪れます。
ミーティングスペースなども設置されており、そこで商談を行うこともできるようになっており、単なる上映の機会留まらずネットワーキングの場を設けることにより、有料で上映する制作側にも訪れる業界関係者にもメリットのある場となっています。
舩橋氏もこのIndependent Film Weekに参加したことがあり、その時の体験を詳細に語ってくださいました。「Echoes」というロードムービーを制作し、多くの映画祭に応募するもことごとく落選。最後に頼ったのがこのIFPマーケットだったとのこと。
舩橋氏の作品は、マーケットを訪れていたベルリン映画祭のプログラマーに気に入られ、その方が様々な映画祭に推薦してくれ、ミュンヘン、カルロヴィ・ヴァリ、フランスのアノネー映画祭などに参加。遂には配給会社も見つける事ができたそうです。
舩橋氏は、映画祭とは不思議なもので自分でエントリーしていても全く反応がないのに、一人のプログラマーが推薦してくれるだけで次々と出品が決まっていく、と当時の感想を語っておられました。
Independent Film Weekは、開催時期は9月中旬に設定しており、これは北米映画市場で大きな影響力を持つトロント国際映画祭の閉幕直後。これはトロントへ参加していたバイヤーや他の映画祭ディレクターの訪れてもらいやすいための工夫でもあるようです。
そうした業界関係者を集める努力の結果か、Independent Film Weekはアメリカのインディペンデント映画において世界の映画祭への窓口として機能している側面もあり、それがさらに多くの作家を引きつける要因ともなっているようです。
■ IFPの会員向けのリソース特典(http://www.ifp.org/membership)
IFPメンバーシップは有料の会員制であり、会員向けに様々なリソースを提供しています。
・劇場チケットのディスカウント・・・制作者だけでなく、一般の映画ファンも会員になれば利用できる。
・制作者向けにフィルムの割引販売、ポスプロ機材やスタジオを割引価格での利用
・健康保険割引・・・アメリカには公的な医療保険制度がないので、重要かも?その他、映画の制作保険の割引もできるようだ
・試写室の割引利用
・インディペンデント映画専門誌、「Filmmaker’s Magazine」の無料購読。
・会員向けワークショップやコンサルタントプログラム・・・映画専門の弁護士に無料で相談できるプログラムや、プロデューサー向けのワークショップから撮影などの技術関係のワークショップまで幅広く行っている。
さらには、制作にあたってのあらゆる悩み事など(予算、キャスティング、撮影、美術や宣伝にいたるまで)を相談できるリソースコンサルタントワークプログラムというものある。
・スニークプレビュー・・・ここで投資家や配給会社が買い付けることもあるという。
・メンターシッププログラム・・・先輩/後輩のような関係性を築いて長期に渡って制作をサポートしてくれる制度。
これだけのベネフィットを供給していながら、年会費はそれほど高くなく、個人メンバーなら35ドルから100ドルほどで済んでしまうそうです。施設や機材などを割引価格で利用できるのは、低予算で制作されるインディペンデント映画にとっては大変ありがたく、舩橋氏も積極的に活用していたとのこと。
またIFPは、優れたインディペンデント映画を表彰するゴッサム・インディペンデント・フィルム・アワードを主催しています。ここからハリウッドへのチャンスを掴む監督もおり、近年はハリウッドのスタジオもスポンサーに名を連ねるようになっており、ニューヨークのインディーズシーンを超えた影響力を持ちつつあるそうです。(逆に近年では、元々ハリウッド資本の作品が受賞するケースも増えて来ています)
【IFPの運営体制について】
IFPは有料会員システムを採用しているが、その運営費の多くはスポンサーによって賄われているようです。
主要スポンサーとして、NYSCA(州の芸術協議会)、New York Times(有名新聞)、HBO(大手有料テレビ放送局)、RBC(カナダの銀行)などが名を連ねています。
運営スタッフには映画関係者のみならず、経営コンサルタント有名大学のMBA出身の経営者なども参加しています。そうした多様な人材がスポンサーや投資家と映画作家を結びつける活動を行っていて、きちんと経営感覚を持った人材による安定した運営が、長年の映画作家の継続した支援を支えているのでしょう。
舩橋氏が、ニューヨーク在住だった時、運営スタッフの一人であったミシェル・ロバート氏は、実際に映画にはあまり詳しくなかったそうですが、経営コンサルタントとしての人脈を生かしてインディペンデント映画製作会社と弁護士を繋げる役割などを果たしていたといいます。
【IFPから日本が学べることは?】
実際にIFPの活動の中で日本での映画支援にいかせるものは何かについても議論が行われました。
日本でIFPマーケットのような取り組みをして、果たして採算に見合うように運営が可能かどうかや、メンターシッププログラムのの必要性など活発な議論となりました。しかしながら、メンターシッププログラムにせよ、長期に渡って新人作家をサポートするとなると、そのメンターの生活の保証の問題など現状では金銭面で様々な問題が生じるので、金銭面においては芸術支援の財団を提携を結んでサポートしてもらうのはどうかなど様々な意見が交わされました。
またアメリカにおいて映画産業は花形産業であり、日本と比較して企業の支援も集まりやすい傾向にあるかもしれないなど、日本とアメリカの土台としての映画文化を取り巻く環境の違いなども考慮に入れる必要があるなどの意見も交わされました。アメリカにおける映画産業の社会的地位の高さのおかげでIFPのような組織も元気に運営できているという側面もあるかもしれません。
映画鍋は認定NPOをめざし、寄付者に対し税額控除を受けることができるようにすることを目標に掲げています。企業や財団からのスポンサーを募るにせよ、一般から広く寄付を集めるにせよ、独立系映画が存在することの意義というものを、いかにアピールしていくかが今後の大きな課題となるかもしれません。
(報告:杉本穂高)