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イベントレポート

鍋講座vol.47【はじめてのインディペンデント映画公開ノウハウ戦略会議】 レポート

開催日時:12月5日(月)19:00~
会場:下北沢アレイホール

【ゲスト】
小原 治(ポレポレ東中野スタッフ)
自主映画の映画祭で予備審査員を長年務め、様々な才能を発掘。作り手と共に劇場公開や上映会を企画し、数々の自主映画の傑作を世に送り出す。2019年11月からはspace&cafeポレポレ坐で映画館の興行とは別の形で自主映画を上映していく企画「KANGEKI 間隙」を始める。自主映画ならではの風通しのいい表現方法を日々、探求している。

福島 亨(シネマディスカバリーズ株式会社 代表取締役)
早稲田大学卒業後、CM業界の仕事に従事。その後フリーランスのディレクター、プロデューサー、映像制作会社代表を経て2019年、シネマディスカバリーズ株式会社を設立。映画制作者の発掘・支援を掲げ、配信事業、イベント事業を中心にミニシアター、国内の映画祭とも連携しながらインディペンデント映画の普及活動を行っている。

熊谷睦子(MAP Inc 代表)
1969年生まれ、岩手県出身。大学在学中より8ミリ映画制作・上映に携わり、1998年に上京。アップリンク、アルゴ・ピクチャーズを経て2017年に配給会社ムービー・アクト・プロジェクト(MAP Inc)設立。主な参加作品に「火星のカノン」「ヨコハマメリー」など。「ベトナム映画祭」運営にも携わっている。

【登壇作家】
大原とき緒(映画作家/独立映画鍋理事)
女性の社会的な物語に寄り添い、インディペンデントの映画作家として活動中。女性が行きたいところへ行って、見たいものを見て、好きなものを好きと言える世界を願って映画を創っている。最も愛する映画監督は、ジャック・リヴェット。

山岡瑞子(映画作家/アーティスト)
東京生まれ。98年渡米。Pratt Institute卒業直後、交通事故に遭い帰国。NPO法人に勤める傍ら、デンマーク留学中に映像編集を始め映画美学校ドキュメンタリー科修了。16年初短編ドキュメンタリー制作。BankART AIR 2021 (横浜)参加。22年初長編ドキュメンタリー『マエストロム』完成。

【司会】
土屋 豊(映画監督/独立映画鍋共同代表)


 イベントのはじめにゲストの方々から自己紹介がありました。それぞれ異なる立場から映画に関わるなかでもみなさんに共通していたのは、映画をめぐる環境が多様化している現況で、インディペンデント映画を支えていく独自の場や仕組みについて考え続けてきたことです。まさに映画鍋と志を同じくするそんなゲストの方々に、自作の今後について映画鍋会員の大原さんと山岡さんが率直な疑問をぶつけました。


 監督作の短編映画『Bird Woman』がいくつかの国際映画祭に選ばれた大原さんは、今後この作品をどうやって人に見てもらえるか考えているそうです。劇場が作品を選ぶ基準や、細やかな契約のことなども気になるそう。ドキュメンタリー映画『Maelstrom(マエルストロム)』を監督し、映画祭で受賞もした山岡さんも、上映にかかる手順や費用、相談できる相手はどんな人なのか訊きたいとのことでした。

 自分の映画について相談できる人はその作品を評価してくれる人、という小原さんの答えは明快でした。映画祭で出会う人や身の回りの人で、作品について真摯に考えてくれる人を見つけるのがまず第一です。そのうえで、劇場が作品を選ぶ基準は千差万別なので、それぞれの映画ごとにどういう観客との出会いを生み出したいか、作品内容と照らし合わせて考えることが重要なのだと、お話を聞いていて感じました。

 また、興行にかかるお金のやり取りについては配給や劇場と最初にやり取りしたほうがよいというのは、みなさん共通した意見でした。いつ支払いがあるのかなどの基本的なことで少しでもわからないことはどんどん訊いたほうがよいとのことです。宣伝・配給の費用については、最初に製作費のなかに含めて考えておいたほうがよいのか?という質問も会場からありましたが、熊谷さんによると、事前に見積もりを出すなどして用意しておいてもらったほうがありがたいそうです。

 映画の見せ方も多様化している現在では、宣伝の方法も様々です。予算がないのなら、ないなりの方法を考えることで別の手段がみえてくることもあります。やはり作品ごとに宣伝の戦略も異なるので、コメントをもらうにしてもどの人にもらうのか、またはもらわないのかなど、作品と対話しながら考えることが重要です。

 また会場からは、地方での興行について、なかなか集客が難しいなかでどう考えていけばいいかという質問もありました。東京で公開してその後地方にひろげる、という方法が一般的ですが、必ずしもそれに乗りかかる必要はなく、たとえば地方からはじめる、または東京だけにするなど、作品に見合った展開を考えたほうがよいという答えにはうなずきました。

 福島さんからは仮想空間を使って出資者が作家と一緒に作品を作り上げていく構想中のプラットフォームについてお話があり、また会場からは日本映画を海外のVOD市場に向けて売り込む「フィルミネーション」という取り組みの紹介がありましたが、映画を作ることも見せることも色々な手段がある今、あらためて自分は映画のなにを見せたいのか、誰に届けたいのかを考えることが、根本的に大切なことです。それを突き詰めれば、例えば小原さんがお話されたように、自主上映会など必ずしも映画館に頼らない独自の方法も見えてくるかもしれません。熊谷さんからも、配給会社に作品を託すほかにも、作家が直接交渉を行っていくこともインディペンデント映画のひとつの道だと最初にお話がありました。今回のお話を聞いていて思ったのは、自主映画の見せ方で「これが正解!」という絶対的な答えはまずないということです。なんとなく周りに合わせるよりも、まずは自分の作品と向き合って方針を固め、信頼できるまわりの人の助けを借りながら、満足できる上映の形を模索していくのが大事なのではないでしょうか。
(文責:新谷和輝)