【レポート】映画鍋講座vol.45 『コロナ時代のインディペンデント映画〜撮影ガイドラインの今と現場の安全について〜』
[開催日時]2020年9月3日19:00〜21:30
コロナ禍はあらゆる業態に対して大きなダメージを与えていますが、映画の撮影現場でも同様です。日本でも大手放送局や映画に関する各団体それぞれが独自のガイドラインや規則を作り公開していますが、スタッフの増員や、スケジュールの長期化、備品や消耗品の購入など、予算の増大へと直結することばかりです。
独立映画鍋にはインディペンデント映画、いわゆる商業映画とはまた違うオルタナティブなスタイルで映画を撮られている方が多く参加しています。これまでも、ギリギリの体制のなかで作品の質と安全性のバランスに苦慮しながら撮影を行ってきたインディペンデント映画にとって、そこにさらにコロナ対策が一枚加わることの影響は甚大で、現場の成立そのものを危ぶませかねません。
そうした中、実際にその現場で働いてる監督、助監督の方をお招きしつつ、感染症対策コンサルタントの堀成美氏、エンターテイメントロイヤーの四宮隆史氏にお話を伺いながら、「withコロナ」の時代にインディペンデント映画の現場の安全性を少しでも高めるために必要な知見を共有する目的でこの講座は開催されました。
[開催形態]
当日は、下北沢アレイホールの会場に、登壇者と、10名ほどの独立映画鍋スタッフ、それと取材される記者の方のみが集まり、オンラインで配信しました。(ZOOMでシンポジウムを行い、Youtubeで基本的に独立映画鍋会員限定で配信。)コロナをどのようにどのぐらい「恐れるか」は社会の中でも意見が割れていて、コロナ対策に関する研究も日々アップデートされていくなか、発言者やインディペンデントの現場が不必要に非難に晒されるリスクを避けるため、基本的に映画鍋会員を中心とした限定配信にしました。
[登壇者]
堀成美(感染症対策コンサルタント・看護師)
四宮隆史(弁護士)
是安祐(演出・助監督)*オンラインで参加。
大九明子(映画監督)*オンラインで参加。
司会/祝大輔(映像作家・助監督)
当日の記録動画はこちらからご覧頂けます。
https://www.youtube.com/watch?v=y9OPmjs15DQ
プロローグ「撮影ガイドラインの現状についての共有」
最初に、テレビドラマ『フルーツ宅配便』の演出や『風の電話』『寝ても覚めても』などの助監督を務めている是安祐さんに、オンラインで、世界各国と日本の撮影ガイドラインの現状についてお話して頂きました。是安さんはFacebookで「コロナ時代の日本映画製作ワーキンググループ」を5月に立ち上げ、撮影現場におけるコロナ対策に関して知見の収集、共有に努めされてきました。今回、独立映画鍋で講座を開催するにあたっても、是安さんら、このワーキンググループの方々に甚大なご協力を頂き、感染症コンサルタントの堀成美さんもご紹介いただきました。そしてそのワーキンググループを立ち上げた経緯もお話して頂きました。
【是安祐さんのお話・要旨】
3月末から4月の頭にかけて、テレビドラマや映画が次々とシャットダウンしていった。私も、4月半ば、コロナ禍で実は撮影真っ最中で中断してしまい、その作品はいまも中断したままでいつ再開できるか分からない。このように中断したままの作品、もしくは再開の目処がつかずに中止になってしまった作品とか、いろいろな弊害がずっと続いていて、この先も商業映画、テレビは年末から来年にかけて、さらに再来年以降も、どういう風に業界がなっていくのか、みんな戦々恐々としながら仕事を再開してるという状態だと思います。
それで5月の頭、緊急事態宣言が出て、私の知る限り100%のロケ撮影現場がストップしていた頃、フランス在住の大野敦子さんというプロデューサーと Facebook 上でワーキンググループを作り、スタッフでコロナの情報共有をしないかということで始めた。濱口竜介監督が北欧の撮影ガイドラインのたたき台みたいのを翻訳してくれて自分の Facebook のページに載せたりしてくれて、そういうものが出てきた最初の頃で、その翻訳を読みながら、じゃあちょっと勉強してこうかと思い、アメリカや韓国などの情報を少しずつ集め始めました。最初は10人ぐらいのワーキンググループだったが、映画業界は意外と狭く、Facebook をやっている人も多かったので、一週間ぐらいで500人、600人になり、今は1600人ぐらいになりました。映画監督、ディレクター、カメラマン、照明、衣裳、メイクなどのスタッフや、プロデューサー、映画ファンの方とか、映画館関係の方もいらっしゃいます。6月ぐらいまでいろんな国のガイドラインを紹介したり、6月に一番最初にテレビドラマが再開し始めた時どんな風にやってるかとかいう情報交換をしたりとか、そういう活動をFacebook 上でずっとやってまいりました。7月、8月になると映画が、本数は少ないですが撮影再開してきたが、現場でいろんなコロナ対策をしなければいけなかったり、各会社によってガイドラインが違うのでそれぞれ守らなければいけなかったり、守るためには余計な予算がかかったり、日本映画の業界の中でもまだまだ暗中模索の状態で制作を続けています。
各国のガイドラインの紹介の任務を預かりましたけども、私もずっと世界各国のガイドラインをひたすら英語情報をもとに追っていったのは6月ぐらいまでで今、どんなアップデートが行われているのかっていうのは、たまにハリウッドリポーターっていう英語の業界ウェブサイトで、ミッションインポッシブルが始まったのかとか、アバターはやっと再開できたのかとか、そういうちょっとミーハーな情報も含めて追ってる感じで、5月、6月の時ほどは毎日、いろんなところチェックしてるという感じではないです。その中で今日は時間も限られてるので最初に出てきたガイドラインと、あと日本映画の中のガイドライン、一番代表的なものとして一番最後に出てきて今もまだ着地してないというところのハリウッドのガイドラインについてご説明したいと思います。
一番初めに5月頭ぐらいに濱口監督が訳してくれた北欧のものは、後からわかったんですが国の公的なものではなくあるプロダクションがこういうものがこれから必要なんじゃないかっていうことで発表したものが、世界初めてだったので世界中に拡散されました。その後にKOFIC、韓国映画振興委員会が仕切ったガイドラインが出てきて、ワーキンググループ内で韓国映画業界に精通してる人が早速翻訳してくれたりしたものを Facebook の仲間たちと共有したりしてました。韓国は皆さんご存知の通り国を挙げて携帯とか色々通じて感染者を追っています。一部にはそんな監視していいのかみたいな話も日本の感覚でありますが、とにかく最初の流行が非常に大きかったので国を挙げてわーとやりました。他の色んな各国の、この後に出てきたガイドラインに比べると、この4月の頭の段階で割とあっさりしていて、撮影中にお熱、測りますとか、マスク着用とか、非常に基本的なことばかり書かれています。
ひとつ、特徴としては感染者が出て以降、もしくは怪しいなーっていう人が出て以降の対応が非常に細かく書いてあった印象です。他の国に比べると。こういうのが意外に初期の各国のガイドラインにはなかったんですよね。どうすれば防げるか、やっちゃいけないこととか書いてあるんですけど、出ちゃった時どうするみたいなのが意外に書いてなかったんですけど、今は割と各国、詳しくなってるんだけど、韓国は最初期からここら辺をちょっと強調していた感じですね。
その後、最初に非常に感染が激しかった被害が大きかったイタリアとかスペインも割と早めにガイドラインを出しましたし、あとハリウッド映画がいっぱい撮影される東欧のチェコ、ハンガリー、ルーマニア、ノルウェーも割と早かったです。フィリピン、インドネシアとか、アジアの方も早かったです。割と遅かったのが英語圏で、ニュージーランド、オーストラリア、イギリスはどちらかと言うと遅かったですね。というのはハリウッドの大作を非常に引き入れてますので、非常に英語圏はユニオンとか、団体が組合とかが発達してますので、そのいろんな諸団体の折衝に時間がかかったのかなっていう予想もしております。
翻って、我が国、日本なんですけど、5月の末にまず最初に、日本映画製作者連盟が出しました。日本映画製作者連盟は主に大手映画製作会社の連盟なので、日本映画はインディペンデント以外も商業映画としてもローバジェットとか、テレビ局主導の作品とか 、wowow、Netflix、Amazon とか色々ありますので、日本映画全体のガイドラインではないが、正式に内閣府のコロナ対策室から各業界にガイドライン作って下さいっていう依頼をし、映画業界としてはこの連盟が代表者として取り扱われ最初に出てきました。この日本映画製作者連盟のガイドラインは非常にあっさりしていて、他の国のガイドラインが40ページ、50ページある中で数ページなんですよね。基本的なことが書いてありますけど、各国と比べて、何で各国はそんなに細かく書いてるのかと言うと予算が多いからやれることが多いとか、いろいろな問題があって、この問題は日本映画業界にこれからも残ってくんじゃないかなと思ってますが、この場はそれを批判したりする場ではないので軽くすませます。
で、一番最後に、では大元、ハリウッドのガイドラインが非常に時間がかかって7月の頭に、ハリウッドのガイドラインが出ました。ハリウッドのガイドラインと僕、言っちゃってるんですがハリウッド全体がこれに沿ってやるということも実はなく、作品によってアップデートしなさいと逆に書いてあります。俳優組合や監督協会、いわゆるユニオンと呼ばれている組合がハリウッドは非常に力があって、大手スタジオとギャラのことなり保険のことなりっていうのはとにかく長年の間、ずっと色々話し合っていろんなことに決めてまいりました。おととしぐらいですかね、脚本協会もストライキとかあったりしてですね、とにかくしっかりとした大きな組織はもう会員が何千人といるんですね。こういう組織が、とにかく自分たちもコロナにかかったら困るわけですから、やりたいこと、要望を他の業界なり大手スタジオなりに突きつけて、とにかく議論を何ヶ月も重ね、やっとまとまったのがこれなんですけど、まだいろいろ揉めてるらしいですね。
何十ページもあるんで内容をご紹介できないですけども、非常に細かく、例えば必ず衛生責任者、何かあったら撮影をストップしていい、プロデューサーと同じ権限を持つような責任者を新たな部署として必ず入れなければいけないとか、そういう人たちの助言を受けて今日はやめようとか、ひとり感染者が出たけど今日はやって大丈夫かとか、そういうのも含めて非常に細い約束事が書かれてます。検温システムとかありますけど、ハリウッドは100人以上のスタッフ、キャストがかかわったりするのが当たり前ですので、カメラの近くにいる俳優さん、カメラマン、ディレクターとか中枢メンバーがゾーンAみたいな扱いで、そのバックアップの人達がゾーンBとか、いろいろこういう細い約束事が何十ページにもわたって書かれてます。これをちらっと読むだけで当然、予算の桁違いというのはあるんですが、日本の数ページのガイドラインと同じ感染症対策なのになんでここまで違うんだろうという思いがございます。
第1部「新型コロナに対する感染症対策の最新の知見について」
第1部では、新型コロナに対する感染症対策の最新の知見について看護師であり感染症対策コンサルタントの堀成美さんがお話しました。堀さんは港区の感染症専門医アドバイザーや東京都看護協会の危機管理室アドバイザーも務めていて、是安さんたちのワーキンググループでも以前に堀さんを招いて勉強会を開催しています。それを踏まえて、独立映画鍋の講座でさらに最新の知見を加えてお話して頂きました。
【堀成美さんのお話・要旨】
新型コロナウイルスは日本では1月くらいから話題が始まりました。中国の武漢から日本の方が飛行機で帰ってくる人たちの受け入れから始まり、その後、2月に横浜の客船の中で感染者が増えるという事態になりました。3月になったらヨーロッパとかアメリカから帰ってくる人たちがいて、そこから地域にだんだんと広がっていきました。5月くらいまでの感染症対策は、何がどれくらいいるのかはわからないけど、とりあえず出来るものはやっておく感じで、どんどん盛られていきました。
その後、だんだんと、私たちも学びまして、たとえば病院のお医者さんだったらこういう風にしたら患者さんたちを救えるとか、あまり重症にならないコツみたいなのがだいぶ分かってきました。対策もすごく盛って色んなことやっちゃったけど、これはやった方がいいけどこれはいらないんじゃないってことがわかり始めて、8月までにはだいぶ確信を持てるようになってきました。今日の時点では4月と比べると検査はものすごく受けやすくなっています。結果として、検査をたくさん受けた分、感染者の数も把握されるようになりました。4月は体調が悪人を検査し、結果として重症の人を中心に見てたんですけど、検査がしやすくなって軽症、無症状の人がどれくらいいるのか見えるようになってきました。その意味では全体の数は増えたけど、4−5月のように大変っていう感じではなくなっている感じがします。でももちろん予防はしていかないと広がり自体は止まらないと思います。
なぜ今日、私たち登壇者はマスクを外しているかと言うと、私たちの前には誰もいないんですね。誰もいないのでマスクを外してる。ただそれだけです。こういう時はやった方がいいよ、これはいらないんじゃないっていう話でマスクが一番わかりやすいのでまずこれから言おうかなと思います。よくわからない時はずっとつけてたと思います。夏が来て熱中症になっちゃ困るよね、とか、一人で歩いてる時ならなくても問題ないし、心拍数があがるような運動をする時は安全のために外しましょうねとなりました。
私個人は、普段必要のないときはしていません。電車乗る時とかバス乗るとか、職場の部屋に入る、人がいっぱいいる所に行く時にマスクはします。手を洗うのも、たとえばご飯、食べるときとか、トイレの後とか、顔をさわる前にやればいいんじゃないとか整理できるようになりました。
・(タッチアンドリセットという考え方について。)
たとえば病院だったら、いろんなところを触ったりして、そこに仮にウイルスがいたとしても触った後に他を触ったり自分を触る前にアルコールで綺麗にしたり手を洗えばいいねってことです。心配ならその都度、リセットができるという考え方ですね。
・(マスク、フェイスシールド、マウスシールドの使い分けについて。)
基本的にはマスクは予防のためにするっていう風に考えていた人たちが多かったと思いますが、これはむしろ自分の喋ってる時の唾を前に飛ばさないというものですね。完璧ではないんですけど私はゼロよりはいいと思います。ひとりひとりの効果は少なくても皆が同じようにマスクをして喋っていたらこのつば全体が飛ばなくなるので、みんなでつける効果は大きいですね。
マスク、フェイスシールド、マウスシールドは使い分けが大切ですね。フェイスシールド、混乱してた頃はけっこう使っている人がいたと思いますが、今は前ほど使う人はいない。たぶんこれはみんながいらないみたいって気づいたんだと思います。フェイスシールドは基本的に目を保護するものです。マスクは鼻まで覆ってますけど、目はあいてしまうので顔がすごく近い距離になるような場面で医療機関で使うものでした。
病院外の人がこんなに使うとは思ってなかったです。マスクの代わりではないので、使う時は私たちはマスクもしてフェイスシールドもします。病院で、たとえば寝たきりの患者さんが起きれない時のお口の掃除したりとか、顔が近くに行く時につけます。でも病院でも普段は使いません。そう考えると、映画を作るところでどういう時にフェイスシールドいるかなって考えると、ものすごく狭まってきて、私があるかなと思ったのは2個でしたね。ひとつはメイクさんですね。メイクさんはすごい近づいて、顔が近いので呼吸が近くなるかもしれないのでやってもいいと思います。
もうひとつはですね、 いろんな人が集まってるところなのでそういう場所では基本的にはマスクをしているのが安全だと思うんですけど、マスクをすると困る人がいる事を学びました。たとえば女優さんの綺麗なお顔がね、万が一、マスクの跡がついたら私も悲しいなと思うんです。役者さんはマスクの跡を残さないために他の人とはちょっと距離を取ってフェイスシールドを安心のために使ってもいいかなと思います。今、私、安心の為って申し上げました、なので感染予防のために使ってくださいということではなく、みんながいるところで私は演技をするプロとしてここにいて体調を崩すのも嫌だし、マスクはできない、だから安心のために他の人よりやや多めに対応してもいいと思います。
マウスシールド、普通のマスクよりはちょっと面積が狭いですけれども、口元を見せたほうがいい人たち、たとえば司会をする人たちとか、ご案内する人でも距離は取ってるんだけど気をつけましょうっていう人たちに使えるとそういう風に場面で分けていただくといいかなと思います。
・(キスシーンや顔と顔を近づけて対面で怒鳴りあうみたいな濃厚接触をせざるを得ないシーンでどのような対策をとればいいかについて。)
私は原則としているのは何々は絶対ダメっていうことは実はあまりないと考えています。やるんだったらこのようにしたらリスクが減りますよという整理や工夫をしていくことだと思います。
現場レベルで今すぐできることとして一つにはうがいがあると思います。うがいをして吐くだけでもいいし、うがい液を使いたかったら使ってもいいと思います。これは何をしてるかと言うと、口の中のいろいろなウイルスを洗い流す一時的な効果は確かにあるんです。だから0にはならないですけどリスク下げる。少しでも減らすという積み重ねのひとつですね。あとシナリオで色々な工夫ができるっていうのも一つあるかなと思いますが、それは私、プロじゃないので皆さんにお任せします。
もう一つ、多少、リスクが生じるかもしれないシーンをやる場合、感染しないように日常生活を整えるっていうのはありだと思います。私は普段外食もしますし、飲み会もしていますけれども、やっぱり撮影の一週間前からは外食はやめよう、家族とだけの食事に限定しようという努力は行われています。スポーツや芸能でも。アメリカで2週間前ぐらいから俳優さんと撮影スタッフを合宿所に囲って外と接しないみたいな、映画ランドみたいなのの中に閉じ込めて、そこで最後、検査して大丈夫だからねという確認もしている。究極だと思いますね。そこまでしてやるのかって思う人たちもいると思いますけど現実にやっている人たちはいます。
GO TO旅行とかね、ご飯会とか批判もされていますけど、やり方によってできるんですよ。でも、感染した人がいたら批判されたり謝罪させられるような社会では皆が縮こまりますね。その人たちが安全にできることを助けた方が生産的です。私はどうやって外食とかするのって言われたら、5人で集まるよりは、3人か4人にしようって。これは何かって言うと座ると分かるんですけど、普通の声で話せる一人距離ですね。6人だと大きい声になって飛沫が飛びやすくなります。あとはメニュー。とりわけの大皿だと顔を近づけてしまうので、お互いそれぞれのプレートで食べるとか、いろんな工夫があると思います。
・(飛沫はどのぐらい飛ぶのかという質問に。)
声の大きさに比例します。もしも感染者が周りにいて、濃厚接触者と言われる基準は、マスクを2人とも外してる、あるいは外してる人が正面を向いて1メートルくらいの距離で15分っが国が出してる目安です。
で、意外とそこまでないんですよ。なぜかと言うと1メーターより踏み込んでくる他人ってけっこう鬱陶しくて、キスしてもいいくらい好きな人だったらいいけど職場の大嫌いな人だったら一歩、下がりますね、普通。今は皆さんもそうだと思うんですけどマスク、外さないでしょ。だからそんなにめったにね、濃厚接触の人って現れないですよ、実は。
・(家族に学校行ったり会社行ってる人がいた場合、家庭でマスクはどうすべきかという質問に。)
家庭ではマスク、してないですね、皆さん。だから家庭内感染が話題になってきています。ほかが減った分、目立つのだと思いますけど。
家族も、家族皆さん、感染しましたって事例もなくはないんですけれども、 お父さんだけ感染しないって事例もあって、それは、普段、お父さんは皆が寝静まった頃に帰ってきて、同居してるけどひとりぼっちみたいな。あと誰も感染しなかった事例では家族の会話は LINE ですというパターンもありました。別に嫌いあってるわけじゃないんだけど、生活リズムが合わない。ちょっと生々しい話なんですけど、毎日のようにハグして、ちゅっ、ちゅっみたいなご夫婦がうつってたかもしれないけど、30年ぐらいセックスレスの夫婦はうつらない。高校生のカップルもまだ手しか繋いでなかったんですみたいな、横並びの手つなぎの人はうつらなくて、週末の度にお泊まりエッチとかをしてる仲良しさんはうつる。
だから、当初は恐怖に煽られて分かりにくかったけれども、コロナっていうのはマスク外して正面で1メーターより近くで濃厚に接触していることがリスクになりますから、それで考えてみてください。皆さんの職場だと、ロケバスで真正面を向いてマスク外してしゃべりますか?たぶんしゃべらない。やっぱりワイワイ喋らない、遠足みたいにはならない。満員電車よりたぶんリスク、低いと思います。満員電車も、寝ているか、スマホいじってるか、本、読んでるか、マスクしてるでしょ。だから飛沫が飛ばない。
・(撮影現場でひとりでも発熱者が出た、感染者が出た場合にどうするのか。)
また前の話に戻しますけど、初期はよくわからなかったので病院の外来で感染者が把握された場合、2週間診療を止めたりしたんですよ。今思えば流す気ですけど。病院が2週間しまると地域の人がお薬、もらえないとか、困るんです。今はどうやってるかっていうと、感染してる人がひとり、いたら濃厚接触の人だけはおうちでテレワークしてくださいとか、マスクしておうちで過ごしてくださいねと言いますけど、他の人たちにまで行動制限はかけません。
それから皆さん、消毒したくなるんですよ。そんなに消毒しなくていいのだけど消毒したくなる。最初は天井とか壁まで拭いてました。そういうウイルスじゃないことが分かったので、今ならよく触る場所、テーブルと、使ってた電話機と、電子レンジと冷蔵庫の取っ手とかを拭く。消毒自体はそんなに時間かからずに終わります。なので皆さんの業務が全部止まるわけじゃないですね。職場で大事なことは濃厚接触者にならないという工夫です。真正面で喋るとき、マスクを外すのは止めたほうがいい。そこで注意することで感染リスクは大きく減らせます。もちろん、食事でも距離をとったり間にパーテーションおく、換気しながらとか、一緒に食べる工夫はいろいろあります。
・(テレビ局とか大手の映画撮影では医療関係者を対策員衛生班として置くが予算的にインディペンデント映画では置けない場合もあるかもしれないので、それぞれのスタッフやキャストが特にどこを気をつけないといけないのかという質問に。)
大人数の人にあることを浸透させるっていうのがすごい難しいと思います。病院でこういう風にやって感染予防やるんだって言っても、全員にメール流しても全員読んではくれない。そういう時は、そのアクションをしてほしい行動の場に例えばメモボード置いといて、指示を立てるってことですね。
たとえば皆さんの業務だと多分、休憩時間がリスクが高いと思います。たとえばタバコ吸う。タバコ吸うときはマスク外して休憩ですからみんなと喋ってしまう。そういうところでしゃべるんだったら1メーター 以上開けてくださいとか、そういった指示を出す。で休憩の場所に飲み物とかが置いてあるなら先にアルコールで手を綺麗にしてくださいみたいな、そういうものをポイント、ポイントでやると良いと思うんですね。その場に医者や看護師を置く必要は私、全然ないと思うんです。
正直、医者や看護師は医療機関のことはよく分かってるけど、その人達のライフスタイルとか業務のことがわからないとあまり言えないし、医療関係者は病人を相手にしているので本当にやらなきゃいけないレベルより高いことを求めてくる。でも日常生活で大事なことは私は続けられるかだと思います。
1時間はやれるけど3週間はやれないということだと、多分、みんな、やらなくなっちゃうんですよ。やっぱり私たちのためを思って作られたプランで、これなら頑張れそうだという、やり取りをして決まったものについては多分、多くの人が協力する。でもえらいどっかの教授が考えたよみたいなのかポンってきても、ぼんやりしてよくわかんないからいいかみたいになる。
一個、おすすめなんですけどみなさんの業務を書き起こして、たとえばメイクさんならこう、照明さんならこう、アシスタントさんならこうと業務、書き出して、そこのどこかになんかしたほうがいいのか分析をしてやったら、多分、専門家を置かなくてもそのノウハウがみんなに広まればいいのかなと私は思ってます。
この前のワーキンググループで皆さん達の勉強会が良かったのは全ての方から質問が出ましたよね。真剣に考えてるんだなってすごく分かったし、みんなで考えたっていうプロセスが皆さんをすごく強くすると思うんですね。コロナだけじゃなくて今後も別の新新新コロナとか出る可能性があるので、その時に負けない、業務を止めないで済むようになるのかなって思います。
第2部「コロナ禍の撮影現場における法的な対策について」
第2部では、エンタテインメント専門の弁護士である四宮隆史さんに、コロナ禍の撮影現場における法的な対策についてお話して頂きました。四宮さんはもともとテレビ番組のディレクターをされていて、海外では映画プロデューサーが弁護士資格を持ってる人が多いということを知って、司法試験を受け、弁護士になり、現役弁護士でありながらまた映画のプロデューサーでもあるという異色のキャリアの持ち主の方です。
【四宮隆史さんのお話・要旨】
エンタテインメントを専門にしてる弁護士っていうのはあまり多くなく、私はテレビ番組のディレクターをやって、そこから急に弁護士になろうと思った経緯もあって、弁護士になってからすぐにエンタテインメント関係の仕事を始め、もう20年弱やってます。
独立映画鍋では2月に映画の公益性についてお話をさせていただきました。芸文振が『宮本から君へ』という映画への一千万円の助成金を不交付決定したことに対して、その決定の取り消しを求める裁判を起こしていて、その弁護団長をしているのですが、2月に第1回の口頭弁論があり、その日の夜に映画鍋で講演をしました。コロナの影響で裁判所も大変な状況で、4月、5月は裁判所が閉まり、6月以降にしわ寄せが来て、短い期間に裁判を詰め込むという状況ですが、その中で『宮本から君へ』の裁判はいちばん大きな法廷を使っているので、なかなかスケジュールが合わず、ようやく10月28日に第2回の口頭弁論が予定されています。また私は独立映画鍋の共同代表の深田晃司監督のエージェントもしています。是安さんが始めたワーキンググループにも入っていて、5月にオンラインで安全配慮義務についてワーキンググループでお話をしました。
日本のエンタテインメント業界では、全般的に契約書を作らない傾向にあります。映画はまだ契約書を作るほうですけど、テレビの場合はほとんど作らない。作っても、契約書を交わすのは仕事が終わった後になる。映画を作る主体、ドラマを作る主体は、全スタッフ、全キャストに対して様々なリスクについての注意喚起を含めた誓約事項みたいなものを配布すべきだと思います。
契約は、契約書がなくてもメールのやり取りだけでも成立します。誓約書にサインしてもらわないといけないかというとそうではなく、一方的にこれを前提に参加してくださいということだけでも契約は成立するので、誓約事項を配布するだけでも十分意味があります。
撮影現場でのキャスト・スタッフの安全のために配慮すべきことはコロナだけではなく、熱中症もあるし、色々な安全配慮義務が法律上は制作会社に発生します。安全配慮というのは生命、身体だけではなくてメンタルも含まれます。マスクをしながら炎天下の中で作業をして、さらにコロナの事も考えなきゃいけない。コロナがなかった時ですら、美術スタッフや、サード、フォースの助監督の人とか、死にそうになりながら現場で仕事しているじゃないですか。さらにコロナのためにプラスして対策しなきゃいけないってことで、精神的に不安定になる人がいてもおかしくないと思います。そういうことも含めて、プロデューサーは、コロナだけじゃなくメンタルケアも含めた「安全配慮」をより意識しないといけないと感じてます。コロナだけの誓約書を作るのは、逆にナンセンスな気がします。
・(撮影現場で実際にコロナになったり発熱した人が出た場合に医療費やPCR 検査の費用は誰が持つのかという質問に。)
やっぱりプロデューサーが持つべきでしょうね。安全配慮義務というのは「安全を完全に確保しないといけない義務」じゃなくて、「安全に配慮する義務」なんです。法的には、基本的にはプロデューサーの責任でもあるんですけども、おそらくお金の流れ的にはコロナにかかった人がいったん医療費を負担します。いったん負担してそれを後で映画サイドが補填をするかどうかっていうことだと思うんですけど、その際にヒアリングをして、感染経路で会食に行ったとか、思わずみんなでカラオケ行っちゃったとか、そういう話が出ればその映画の現場とは違うのでプロデューサーが医療費を支払う義務はありません。例えば法的に似たような話としては、マイカーで会社に通う人が、会社の通勤途中で事故を起こした場合、それは会社に責任があるのかないのかって裁判がよくあるんですけど、それに近いんですよね。
通勤途中で事故にあっても我々は知りませんよと会社側は思うでしょうし、実際に会社の責任は否定される傾向にあります。だから、安全対策が十分なされているところで会食をしたのか、そうじゃないのかという、そういうところも含めて、会社側やプロデューサー側に医療費を支払う義務があるのかを法的には見ていくことになります。
だから現場で複数人の感染者が出ましたとなると現場に何か問題があったんじゃないかという推定が働き始めます。映画の現場でひとりだけ感染して、ほかの人は全員陰性だったとしたらそれは多分現場の問題ではないだろう。ケースバイケースにどうしてもなってしまうんですが、マイカーの例だと会社側がマイカー出勤を了承していた場合は法的には会社側の責任になります。ガイドラインを全部遵守しなきゃいけないとは僕は思わないんですけども、コロナに関しては三密を作らないとか、検温するとか、必須の対応策はいくつかしかないので、そこをきちっと守ることが大事で、必須の対策はとっているのに現場のスタッフから感染者が出たというのは、スタッフの自己責任になる場合が多いはずです。美術部全体、陽性になりましたって言うと、問題ですけど。
海外と共同で製作する場合、特にアメリカでは、権利処理という意味でも、もともとエキストラ一人一人からも書面をとる慣習があるので、コロナになったから書面を交わすということにはならないんですが、その意識を日本の映画制作現場でも今後は持っていった方がいいんじゃないかなと思います。全員から書面をとるのはなかなか大変ですけどね。ですので、一方的でもいいのでこれを重視してくださいね、迷ったら相談してくださいぐらいのコミュニケーションが事前にあるといいなとは思います。
・(司会の祝さんの現場で役者が周りに人がいないからマスクやフェイスシールドを助監督がOKして外したことがあったが、プロデューサーを通さないといけなかったのかという質問に。)
基本的に著作権法上は映画の権利を持つ人は「映画製作者」です。この「映画製作者」の判断基準として、経済的な主体となるかどうか、法的な主体となるかどうか、あと映画製作の意思があるかどうかっていういろんな条件があるんですけど、「法的な責任者になる」という基準がひとつあります。
製作委員会の幹事会社が「コロナに関しては法的な責任を負いません」と言うと、映画製作者としての要件を欠くことになるので、現場にいないことも多いとは思うんですが、最終的には委員会を代表する幹事会社が法的な責任を負うので、幹事会社のプロデューサーの最終ジャッジを本当はとったほうがいい。それをとらないと、現場のラインプロデューサーの方が個人的に責任をとらないといけなくなってしまうので、現場の制作会社の皆さんのリスクヘッジのためにも電話でも何でもいいので幹事会社のプロデューサーにしたほうがいい。時間的な制約もあるでしょうが、法的にはそうした方がいいです。
・(スタッフが契約書を見た時にコロナ対策が不十分なんじゃないかと感じた場合、プロデューサーとどう交渉していけばいいかという質問に。)
契約書にいろんなことを網羅することはまず無理なんですよね。アメリカ式にやれば50ページ、60ページにおよぶ契約書っていうことになるのかもしれないですけど、まだ日本では無理なので契約書はどうしても不完全になる。ですので、契約云々とは関係なく、契約書はなくてもプロデューサーは安全配慮義務を法律上負わなければいけないので、この対策では十分な安全配慮義務を果たしていない、ということがあれば、プロデューサー側に言った方がいいと思います。契約書云々ではなく、言いましたよっていうことの履歴を残すってことですね。対策が不完全だと思ったら。
・(スタッフひとりだとたいへんだから、その場合はスタッフ何人かでという質問に。)
そうですね。でもそれって一人で行ったりすると無視されたりするけど、何人かで行くと無視されないということだと思うんですが、その時点でダメな気がしますけどね、プロデューサーとしては。
・(知り合いの医療関係者に話をしてからいくというのはどうですかという質問に。)
そうですね。プロデューサーは、現場を預かる人の責任としてきちっと医学的に正しい対策をとらないといけないと思います。インディペンデントの映画の場合には、そもそもそんな費用もないし、できませんよということもあるのかもしれないけれども、少なくともコロナに関しては、ワクチンができたりしてインフルエンザと同じぐらいの感じになるまでは、全体で一枚岩になって感染者を出さない、という対策を徹底してやらないといけないでしょう。書面ではなくてもメールのやり取りでもいいし、口頭でもいいし、現場のコロナ対策に不備があればきちんと伝えていく、ということは重要なことだと思います。
第3部「コロナ禍の撮影現場の現況報告」
第3部では、祝大輔(映像作家・助監督)さん、是安祐(演出・助監督)さん、大九明子(映画監督)さんが撮影現場の現況報告を行い、堀成美さんと四宮隆史さんが答えていきました。
(司会の祝大輔さんのお話・要旨)
「自分のテレビの助監督の仕事の場合はもともと2月、3月、4月で撮影するはずだったが4月の頭にストップして、4月、5月と休んで、6月いっぱいで4月分を撮影した。6月、皆マスクをして、役者さんに近づく人はフェイスシールドもして、撮影が始まった。最初の頃は厳格なルールがあったが、だんだん守れないものも出てきた。ガイドラインでは一度にスタジオに入るスタッフの数は40人までと決めて、セットでの作業はカメラ、照明、音声、美術の各スタッフが順番に入って作業することにして三密状態にならないようにしようとした。しかし、これをやると撮影時間がもう1.5倍とか2倍とかになってしまうので守れなくなっていった。(その代わりに普段は閉められているスタジオの扉やシャッターを開放し、大型扇風機で出来る限り換気することで三密状態にならないようにした)でも、そういうスタッフの数、40人(いま改めて思い返すと各スタッフがまとめて入っても40人を超えることは滅多に無かった)までとかっていうのはやっぱり意図的に守らなきゃいけなかったんでしょうか。」
(堀さんのお話・要旨)
「これは総量規制って考え方で、たとえば100人、入るとこに最初は50人、座席だったら一個飛ばしてからやるみたいなのは管理はしやすくなる。大丈夫そうなら60、70と広げていく。でも観客が喋らないでマスクして座ってるんだったら別に飛ばさなくてもいいんじゃないっていうことが8月の終わりぐらいに分かってきた。やっぱりパチンコとか、満員電車、見ても何も起きてないじゃないという話から来るんですけど。いまの40人の話に戻ると、たぶんあまり根拠なくて、私だったらそこで何しますかって聞きます。黙々とチームで動いて最低限の事を会話しててもマスクしてやる、そこでご飯を食べたりタバコも吸わないし、マスク外さないならいいと私なら言いました。でも祝さんはいま、重要な点をおっしゃいました。よくわからないまま、なし崩しになっちゃう怖さ。そこでみんなの気持ちがもうついてこなかったり、不安になったり、チームへの影響っていうのはものすごい損害だと思います。ですからやはりうやむやにするくらいだったらルール変更みたいにちゃんと言ってあげた方がいい。
最初に言った、できそうもないこと言うとみんなの心が折れちゃったり離れるんです。だから根拠もみんなも納得しないし、守れないことは、私は害しかないと思ってます。
直前までは皆でマスクで練習しててその時だけ外すっていうリスクをゼロではないけど100でもなく30に持ってくってやり方がそれは一つでしょうね。あとは皆さんの演出家の努力だと思うんですけど、正面に向き合わなくても撮れるなら、同じ喋っても正面じゃないだけで全然違うんですよ。45度だったらお互いの飛沫が飛んだとしても顔の方に行かないじゃないですか。そういうことでリスクを減らせる。私は工夫をどうするかはみんなで合意形成していくというのがありだと思います。
コロナはもしかしたら、どんな位置づけになるかはまだ分からない、でも大騒ぎしなくていいレベルになってきた時に、私たち、過ごしやすくなると同時に予防はゆるむと思います。だからその時に忘れてしまわないで、社会の痛みと経験と共に次の時にはもっと上手くやろうみたいな感じで皆さんの現場の中にも落ち着くといいなと思います。」
(再びオンラインで是安祐さんのお話・要旨)
「たまたま、ある映画の現場の応援の助監督として二つの現場を昨日、おとといとせわしないですが経験しました。よく知ってる監督でよく知ってるプロダクションでスタッフもそれなりに40人、50人で。すごく大雑把な感想を言いますと、思ったより前の通りだったなという感じです。これは悪い意味ではないですね。二つともオープンの撮影でしたので、祝さんがおっしゃったような、各順番にセッティングに入って時間をかけたことはなかったんですけど、ちょっと密になったらみんな離れるとか、移動中に食事をしないように、喋りながらしないようにとかいう感じはありましたが、おおむね、前の通りだなっていう印象がありました。それでは私が不安を覚えたかと言うと、これでいいのかなっていうところも若干感じたところがありますが、かといって不安だというほどでもなかったんですね。」
(是安さんより質問・要旨)
「映画業界のプロダクションで撮影前に抗体検査を皆でやろうっていうところが全部じゃないですけど増えてきているんですね。これに関しては堀先生はどんなリアクションをとるでしょうか。」
(堀さんのお話・要旨)
「なんでもポジティブないい面と、どうかなというのがあります。抗体検査は何を見るかって言うと、感染した後にウイルスが入った後に反応したものを見るんですね。でも検査って目的があって、じゃあ、分かって何するのってことだと思うんですね。だから別にわかっても何も知らない、使えないならいらない検査なんです。で、抗体検査、今日の時点で最新の情報を言うと、感染したらずっと反応があればいいんですけど、数ヶ月で消えちゃうことが分かったんです。消えた後に検査したら陰性でかかったことないのか、消えちゃったのかがよく分からない。しかももしも抗体があったらもう二度とかからないのかも分からない。抗体検査で分かっても使い勝手が悪いなーっていう感じはするんですよ。ただ、ご本人には意味があるんです。
ですから私はこんな風に言いながら抗体検査を否定しません。なので検査としては抗体検査を検討されるよりは、やるんだったらこういう風に考えてください。やるんだったらもし陽性だったらどうするの、この人をどういう扱いにするの、少なくても不利に扱っちゃダメですよね。陰性でも、3日前に感染したばっかりで反応してないだけなのか、あるいはウイルスがチョロチョロしかいなくて弱い反応しか出てなくて引っかからないだけなのか、実はよく分からないんです。今も、100%、バシッとね、正解みたいな検査、ないんですよ。だからやるんだったらその解釈をどうするかってことをやっぱり準備してからじゃないとかなり危ないと思います。」
(是安さんのお話・要旨)
「まさに映画の現場、私が参加した両プロダクションは何本も作っているとこなので、その後の対応っていうのを何も考えてない、大騒ぎして終わりということではなかったと思いますが、確かにじゃあ陽性者が出た場合、どうしようとか、各チームが本気で考えた上で配役の方まで含めて周知をする、そういうことで検査するんだよっていうのをちゃんと周知をしてくれればスタッフ側、役者側もやって頂いた方がいいのかなって感じ、しました。」
次に、大九明子監督の新作『甘いお酒でうがい』予告編を上映後、オンラインで、大九明子監督にお話して頂きました。
(大九明子監督のお話・要旨)
「私は3月の下旬から映画の撮影クランクインしておりまして、それが、4月の頭、緊急事態宣言を受けまして撮影が一旦ストップしました。今、予告編を見て頂いた『甘いお酒でうがい』が4月10日から公開予定だったのが公開延期。私としては映画監督人生で初めての衝撃的なダブルパンチでした。撮影は一旦中断したもののいつ再開できるのかとか、誰も明言できない。俳優がここら辺は空いているだろうからおそらくここにできたらいいねとか、そういう希望的観測でしか言えないタイミングでした。
3月の下旬から撮っていた時、すでに日々、刻々と日本中が不穏な空気に包まれていて、最初は横浜港に停まっている船、そこで完全に封じ込めれば大丈夫だろうといったような空気の中、その横浜の方もロケしてたのでみんなこうなんとなく横浜を通過するときだけ緊張してたりとかそんなような空気だったのがクランクインする頃にはどんどん感染者が増えていき、なんていうか正解がわからないまま手探りでガイドラインもないままでやってたんですね。
その頃は非接触型体温計すら買えなくて、個人的にみんなが持っているものを持ち寄ったり、なんなんだろう、これ、現代の話なんだろうかっていうぐらい、ものが不足してしまった。マスクも跡がついてしまうので、俳優はなしにしましょう。でも俳優にも何かしてもらわないと俳優を傷つけることになってしまうかもしれない。じゃあ何があるだろうというのでフェイスシールド、それを誰かしらゲットしてきて、それをやってみようかと。
その後、撮影が再開できたのが6月の下旬なんですけれども、もう8割ぐらいが撮れていたので、その分のオフラインの編集を始めましょうということになったんですが、オフラインの編集の米田さんという方の自宅で私はいつも編集させてもらうんですけども、家から彼の家までバス一本で行けるんで、そのバスすらもすごくなんか怖くて孤独で、みんな、こう、人が、新しい人が乗ってくるとうわっと警戒している空気があるし、米田さん家に着いたら着いたでお互い何していいかわからないから、まず手を洗って消毒して、編集してる間中、ずっとマスクをして、後、プロデューサーは誰一人来ないし、もうお任せしますという状態で。
すごく孤独な中で、映画って集団でつくる事が一つの喜びなのに、なんでこんな孤独な作業を恐怖の中でしているんだろうとすごく辛い時期だったんですけども。で6月下旬にいよいよ撮影再開した時にはもうきちんとプロダクション側でルールを全部決めてくれていて、衛生担当という、ひとり、制作部にたてまして、その人間が触ったもの以外は俳優の口に入らないようにするとか、準備にすごく時間はかかるけれども、俳優もスタッフも安心して仕事ができるという状況には少しはなったかなと思います。またドラマの方はドラマの方で、ルールがちょっと違って、それもまた不思議なんですが、そちらの方は朝晩、自分で体温を測ってそれをネット上で全員でアップして共有するという形をとっていて、特に衛生専門のスタッフをひとり、置くとかいうことはしておりません。
ただどちらの現場もですね、お茶場っていうシステムがなくなってしまって、ただこの真夏の炎天下でマスクをして撮影をしているともう間もなく頭痛がしたりとか、熱中症とか、手袋をしたプロデューサーが飲料とかをスタッフ一人一人に配りに行ったりとか、気をつけながら撮影、進めるっていう事を今もしております。
今日、この鍋講座をずっと最初から聴かせていただいていて、私にとっては答え合わせみたいな感じでした。そうなのか、あれはやっといてよかったんだなとか、プロフェッショナルの方の言葉を聞けて、また少し答え合わせと安心感を得られた感じではあります。
撮影中断した映画の方なんですが、そのまんま撮る気分にはとてもなれなくて、改稿しました。とてもコロナっていう事象を無視できないなって思って。それをもろに語るということではないんですけども、それが底辺にうっすらとしかれている世界線ということにしまして、これを書き変えて俳優に説明してスタッフにも説明して共有してもらうっていうことはしました。
で、実は本当は海外での撮影も予定をしていまして、そのへんも完全に中止となり改稿を余儀なくされたんです。でも、負けの画みたいな形、仕方なく世界に主人公が行く予定だったのを国内に変えましたとか、そういうことにはどうしてもしたくなくて、結果的にはですね、人間は行かない形ですが現地にも素晴らしいカメラマンや制作スタッフがいっぱいいらっしゃるのでそちらの方に通訳をかいしながらリモートで撮影をするということをしました。
そういうことでなんか映画に強度を与えることができたんじゃないかなと。これを見て頂くのがすごく楽しみだなという気持ちになっております。」
(大九さんの話を受けて、堀成美さんのお話・要旨)
「人がいなくなった都市とか、終わりが見えない中での凄い気持ち悪さとかね、不安の中で耐えて完成していくっていうそのことだけでほんとすごいなと思います。たぶん今、子供たちにいろんなものが残っちゃってて、友達と離れなさいとか、遊ばせてもらえないとか、全然違う世界が現れて。私はコロナ自体はなくなると思ってるんですけど、人々の心に残ったものってそんな簡単に消えないと実は思っていて、映画を作る方が、メイキングストーリーですか、これを一緒に語ってくださることでものすごい励まされるんだなって思いました。」
第4部「質疑応答」
第4部は、オンラインで視聴する映画鍋会員などから、堀さん、四宮さん、是安さんへの質疑応答を行いました。
・(いつワクチンができ通常通りの撮影が出来るようになるんでしょうかという質問に。)
堀成美さんのお話・要旨「ワクチンはいつ頃、できるのかが全然、わからないのと、人間で試してる最終段階のものがいくつかあるのですが、そこまで行ってもポシャって製品にならないってことも時々あるんです。必ず出てくるかまだ分からない。で完成しましたと言っても、日本に同じリアルタイムですぐ入ってくるかもわからない。ワクチンが出来たとして私たちが今とは違う生きやすい活動しやすい状況になるかというとそれはもっと先だよっていうのが一点。これはあまりいい話じゃなくて申し訳ないですが。一方で考え方を変えるようになりますね。コロナ自体もだんだん弱くなってね、普通の風邪ほどでもないけど最悪でもなくてこの辺ぐらいに落ち着くんじゃないかとの見通しが立ってて、そういう意味では自由度が増すことは出来る。そこの努力をするってことでは今でも出来る。ですのでワクチンを待つだけではなく私たちはいろいろやりましょうという提案です。」
<2021年3月補足>
世界では2020年12月から、日本でも2021年2月から新型コロナウイルスのワクチン接種がはじまりました。接種率の高いイスラエルでは新規感染者が減っていたり、アメリカでは接種している人どうしなら、接種して2週間たったたらお互いの家庭を訪問してマスクなしで距離を取らなくてもいいという条件つきではありますがマスクをはずせる基準を3月8日に発表しました。個人だけでなく社会全体で接種する人が増えるとこのように行動の拡大、生活の取り戻しは進むのではと期待しているところです。
・(フェイスシールドについて。)
是安さんのお話・要旨「2つの組を経験しましたがフェイスシールド、テイクが重なりますよね。もう1回、テイクします。会話は結構ありますとかいう時に当然、テストではないので、本番をやり直してますので。そうした時に15分外してて OKが出て次のテストでもう1回、フェイスシールドしてますっていうのは、うーん、どうなのだろうって、僕はちょっと端から見てて思ったりはしましたね。」
(オンラインの質問者・プロデューサーの佐藤圭一郎さんのお話・要旨)
「フェイスシールドをちょっと預けるってことがリスキーだなって思ってたんですけれども、こういう、1回ひっかけて両手をあける時間をちゃんと演技事務に確保させるようにしてます。一時的に引っ掛けるものを用意してます。熱中症リスクは厚労省が6月ぐらいに発行した熱中症リスクがあるのでマスクを外しましょうっていう冊子を導入してバランスをこちらの現場でも取り入れてはいます。外してるときは喋らないで。
運用して有効だったものはやっぱり検温アプリの導入です。これはやっぱりスタッフならびに一日しか来ないキャストも割とやってくれるので出発場所のスクリーニングゾーンで非接触型で検温をする時にすでにアプリに入力済みの方はそれを通過できることでとても効率的に出発時間のロスもなく、かつ記録も残るのでこれは導入してとても正解だったなと思ってます。」
・(ロケ地との交渉について。)
堀さんのお話・要旨「受け入れる側のマインドに一回、なるといいかなと思います。東京とか都市部から来る人たちについて私たちが想像しないほど怯えている人達は実際いますのでスムーズにやっていただく、やれるようにするためには具体的にある範囲のことは明文化して渡す。
高齢者のところに行ってもいいけど、行くときは座る席で高齢者の方は椅子に座っていただいてお話聞く側は畳の上に座って高低差をつけるとか、それは周りの人みんなが納得する方法の一つなんです。ですからマスクは直前に外すかもしれんけど、それまではしていますとか、真正面ではないんですよとか。そういったことを。この人たちはこういうことやってくれてるんだなとわかると私はうまくいくように思います。すべてはコミュニケーションです。
あと、ロケに行く際の工夫のひとつの中に、私たちの撮影チームや関係者は全員行く前に検査をしますっていうのは今後、入ってくる、もうやってるところもあるし、入ってくるんだろうと思います。」
<2021年3月の補足>
その後、格安PCR検査が都市部では普及しており、また地方からも郵送検査が可能になりました。アクセスがよくなった分、「XXXの前には検査をしよう」と対策に取り入れるところは増えました。しかし、検査の結果は100%確実ではないことや費用負担の問題などまだ課題はいろいろあります。検査の結果陽性の人が把握された場合にも、その人が辛い目にあわないようにするなど個人情報保護含めてBCP(業務継続計画)の中に位置づけることが大切ですね。
四宮さんのお話・要旨
「制作部の人にとってはロケ地探しが今かなり大変なんじゃないかなと。医療ドラマとか医療病院は使えないし、例えばマンションの一室でロケをする、その同じフロアに他の住民もいる、万が一そこで感染者が出てしまって住民の方にも出たらお前らのせいだと言われてなかなか反証が難しいですよね。非常に難しい問題だなとは思ってます。
制作部にとってリスクヘッジをしていくためには、いろんなロケ地探しで使われているロケーションサービスやロケーションハウスと話をして、こういうご時世になっているということの理解を得ることや、撮影時間も想像以上に長くなると思うので、そういったことにもロケ地サイドにご理解をいただくということですよね。かつ、内部的なことで言うと、いわゆる責任の主体を明確にして、制作部がすべて引き受けるということではなく、製作主体、テレビならテレビ局、映画なら映画会社や幹事会社が、こういうところでロケをするんだけれどもリスクはゼロにはならない、ということを現地の人ときちっと話すことが重要でしょう。廃墟だけでロケをするわけにはいかないでしょうから。そこは非常に難しいところだろうとは正直、思いますね。
メールを一方的に送ればいい、と先ほど言いましたが、メールを送ったという履歴があれば読んでなくても大きな責任を免れることはあります。ただその意識づけをするためにはメールを送るだけではなくてスタッフが集まった時、打ち合わせの段階で書面で渡すなど、いろいろな方法で意識づけをしていけば、スタッフ、キャストの署名がなくても法的には意味があります。」
・(インディペンデント映画で衛生係を一人置けない場合にどうすればいいのかについて。)
堀成美さんのお話・要旨「衛生係ってものをもし仮に置くんだったらやって欲しいことを二つだけあって、一つは毎回、どこでも手を洗えるわけではないのでアルコールを置くようになると思うけどそういうものをやるとき、たとえば7か所に決めたら7か所に定位置に置くことを管理してもらう人がいるんですよ。で、なくなったら補充しなきゃいけないとか。それはやっぱ誰か決まってないとやらないと思うんですよ。皆さんのような業界だといろんなことも小回りが利く人がやられるならそれを臨時に衛生の係も兼ねるのでいいんじゃないかという風に思います。私がよくやる方法は大体、A4にやって欲しいことを、文字で書いても出来ない人もいるので、写真撮ってあげてラミ加工してそこにぶらさげるとか、目に入ってああ、そうだったなあと思ってやるぐらいだと思うんですよ。
人間は。だからガイドラインに書いてあることを参考にしつつ、皆さんの現場でまさにお互いに思ってることがあったら、これも書いた方がいいんじゃないみたいなことが増えてくとみんなも安心するし、自分たちで提案したことはやると思います。そういう努力がいるのかなとは思います。」
四宮さんのお話・要旨
「法的なところで言うと、労働安全衛生法という法律があって、事業者は必ずその総括安全衛生管理者を置かなきゃいけないと定められています。実は20年前の平成10年に中央労働災害防止協会が、映画、テレビ番組の撮影現場における労働災害防止のガイドラインを出しています。このガイドラインでも、映画、番組、コマーシャルの撮影現場等における労働災害防止のため、事業者は総括安全衛生責任者を選任しなければいけない、と書かれています。
そう考えると、僕がずっと思ってることはやっぱりコロナだけの問題ではなく、現場のスタッフたちが安全衛生管理をするというのは一つの映画を作る義務でもあると思うんですね。たしかにそこに人件費や追加のコストがかかってくるとか、難しい面もあるとは思いますが、でも逆にそれが当たり前であるような業界になるきっかけでもあるのかなっていう気もします。
僕は弁護士になろうと決意したときから思っていたんですが、エンタテインメント業界はコンプライアンスが全然できてないなと感じています。コンプライアンスとは日本語で「法令遵守」という意味なんですが、世の中で言ってるコンプライアンスは、ネットで炎上するのを避けること、と捉えているような気がします。そうではなくてきちっと法令を遵守して映画をつくっていきましょうということがコンプライアンスなので、そういう意味ではちょっと大変だとは思いますけども、少しずつ、法令に基づいて現場での安全衛生管理をするきっかけになればいいと思っています。セクハラやパワハラなどのハラスメントの問題も同じです。意識を変えていくいいタイミングなのかなとは思ってはおります。」
堀成美さんのお話・要旨
「コロナの人がいたとするじゃないですか。その場にいた人がたとえば50人いたら2日前からの行動を見てね、一緒にいた人は誰ですかっていうこと聞きますね、そうすると実は4、5人しかいないことがほとんどで。疫学調査とか色々テレビで言ってるのはこうやってるだけなんです。であとはこの人がいた場所を拭きましょうかみたいな、そんなことだけなので、そんなに大騒ぎすることでも実はないかなと。
だから皆さん、これで気づいたと思うんですけど、なるべく影響を小さくするためにやっぱりマスク、大事じゃないということと、衛生、頑張っておこうかなということなんだと思います。これが学校の場合や会社の場合は座席表、見せてっていうことなんです。」
司会の祝さんのお話・要旨「例えば宴会のシーンをやったんですけど、その時は10人いたら、10人を検査して?」
堀成美さんのお話・要旨「あ、そういう風にはやらないです。やっぱり距離を考えるし、一言しか喋らなかったとか言われたらそれはちょっとね。10人全部とか、そういう風にはならなくて、全員がダメってことはないです。現場を止める必要は今はあまりないですね。だから大規模にはなりにくいんですよ、実はこの感染症。」
司会の祝さんのお話・要旨「けっこういま、検査数も増えてきましたし、まあ、普通にあるよね、しょうがないよねっていう感じですね。」
堀さんのお話・要旨「もともとそれで良かったんですよ。だからメディアの影響、大きいし、今度ですね、人権問題を扱う先生達がいらっしゃるんですね。それはやはり報道でここまで言う必要があったのか、それを見直しましょうっていう動きですから、今後は少なくとも人が特定されないようにとか、あるいは風評被害にならないようにとみんなが頑張ろうっていう風に、それは私達全員でやらないとどうにもならないなと、と思ってて、だいぶ空気、変わってきたので、別に大騒ぎしてるとなんであんな大騒ぎしてるんだろうという風にはなってくと思います。」
最後に、司会の祝さんの「本日、来てくださった堀さんと四宮さんに、拍手だけ送って終わります。ありがとうございました。見てくださった方もありがとうございました。」という言葉で、たいへん内容がある映画鍋講座を終えました。また、今回の実施にあたりご尽力頂きました映画プロデューサーの大野敦子さんに深く感謝申し上げます
(まとめ 金子サトシ)