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イベントレポート

【鍋講座Vol. 30】「世界のドキュメンタリー映画祭は今!ヨーロッパと生中継でトーク!」レポート

【デンマーク・ドイツよりSkype中継】
 ゲスト:
ニクラス・エングストローム(CPH:DOX プログラム責任者)、グリット・レムケ(DOK LEIPZIG 映画プログラム責任者)
 司会・進行:植山英美(ARTicle代表、映画鍋会員)
 企画・通訳:藤岡朝子(山形国際ドキュメンタリー映画祭理事)
 開催:2016年6月7日(火)19:00~21:00@下北沢アレイホール

 今回は藤岡朝子さんの企画で、鍋講座では初めてSkype中継!運営もいつもより早く来て緊張のセッティング。今回お話して下さったのはデンマーク、コペンハーゲンの「CPHドックス」のニクラス・エングストロームさんと、ドイツ、ライプチヒの「ドック・ライプチヒ」のグリット・レムケさん。二クラスさんの「CPHドックス」は今最も先鋭的なドキュメンタリー映画祭と言われ、60周年を迎えた「ドック・ライプチヒ」は、ライプチヒ中央駅舎内で上映するなど古い町並みの魅力と政治性の強い独自プログラムを誇る。ネット中継を利用しそれぞれの映画祭の代表者と対話しながら、国際ドキュメンタリー映画祭の役割と昨今の傾向について、植山英美さんの進行、藤岡さんの通訳でお話頂きました。まずは藤岡さんの概論から鍋講座がスタート。
※ このイベントは、動画も公開されています。本文の最後までスクロールダウンしてください。

概論:ドキュメンタリーを国際映画祭に出すなら・藤岡朝子

 国際映画祭は1932年にベネチア・ビエンナーレの中で映画部門がスタートしたのが一番古い国際映画祭だと言われており、当時は特権階級の社交場としてスターとお金持ちが出会うサロンの役割でしたが、その後は「映画は庶民のものだ」という考え方を掲げる人たちの運動によって、映画祭はお客さんと映画制作者が出会う場に変わっていきました。車の産業ならモーター・ショー、ファッションならファッション・ショーのように、「その年の一番の目玉はこれです」「これからの傾向はこうなるんじゃないか」というような、兆しを感じさせるような定期的なイベントが映画祭です。デジタル時代を迎えて、作る人、上映する人が爆発的に増えている今、世界中に3000とも5000とも映画祭があると言われています。1988年〜89年ごろ、ドキュメンタリー専門の映画祭が世界中に生まれ始めました。それは、それまでドキュメンタリーと言うと教育・文化映画だったのが、そうでない、もっと多様な作り方をしている映画、クリエイティブで面白いものとしてのドキュメンタリー映画を伝えていくきっかけとなっていきました。当時始まったアムステルダム・ドキュメンタリー映画祭は、今20数万人の観客を集める世界一大きい国際ドキュメンタリー映画祭になっています。
 歴史はともかくとして、今どういう映画祭にドキュメンタリーを作られた皆さんが応募して、上映してもらえばいいか、をざっくりとカテゴリーに分けてみると、

①総合映画祭のドキュメンタリー上映:ベルリン、香港、ロッテルダム、ロカルノ、上海、釜山、シドニー、トロント、サンダンスーその国を代表する、日本で言えば東京国際映画祭のような映画祭です。その中でドキュメンタリーを上映する部門があったり、一般プログラムの中でドキュメンタリーが含まれます。ドキュメンタリーは映画文化の中で重要な一部であるという考えが根底にあるからです。選び方はそれぞれの映画祭で様々で、例えばシドニーの映画祭では食べものに特化したドキュメンタリーなど、分かりやすい大衆向けのドキュメンタリーを求めています。ベルリンなどではそうではなく、とんがった実験的な手法、斬新なアプローチの新作ドキュメンタリーを求めています。

②ドキュメンタリーのメガ映画祭:IDFA(アムステルダム)、Hot Docs(トロント)、ライプチヒ、CPH:DOXーこれらはここ10年くらいの間に拡大してきたドキュメンタリー専門の映画祭のことですが、IDFAやHot Docsは観客動員数20万人以上の規模。CPH:DOXでも9万人。藤岡が長期に関わっていた山形国際ドキュメンタリー映画祭では1週間の観客数が2万3千人なのと比べると、だいぶ違います。映画祭と言っても全然雰囲気が違うということがわかると思います。大スターが来るような総合映画祭の釜山映画祭とドキュメンタリーだけをやっているIDFAが同じくらいの観客を動員するのです。映画祭はだいたい多角経営をしていて、ワークショップをやったり、オンライン・プラットフォームを作ったり、年間を通して、より良い映画を自分たちの映画祭で上映するために活動しています。ドキュメンタリー映画の企画を育てて出資者とマッチングするような仲人の役割をしたり、補助金を出して支援をしたり、お披露目の場を用意した上で、バイヤーと繋げてマーケティングのサクセス・ストーリーを作っていく、など。企画から、完成してお客さんに届けるまでを導いてあげるのがメガ映画祭の役割であり、その分自分たちの映画祭の名声・ブランド性が高まるという考え方のようです。このように成功が必須なので、ある程度メジャーな、商品としてのドキュメンタリーを求めているのが、メガ映画祭のテイストです。

③アート系ドキュメンタリー映画祭:TIDF(台湾)、山形、イフラバ、マルセーユ、visions du reel(ニヨン)、cinema du reel(パリ)ー芸術的・先進的な、実験場を提供しているような映画の場として自らを認識していて、比較的インディペンデントが入りやすい映画祭。多くの場合、小さい街で開催されていたり、メガ映画祭と対抗するために映画祭同士のネットワークを繋ぎ、芸術的でクリエイティブなドキュメンタリーを守っていこう、という運動を立ち上げたりしています。

映画祭は細分化、多様化している:LGBT、エコロジー、人権問題、映像人類学、食・音楽、日本文化・・・。最近非常に大きくなってきているのは日本文化映画祭、例えばnippon connectionなどは1週間に6万人も日本大好きな人たちが集まる日本文化の巨大なプラットフォームです。このような特殊映画祭は、比較的上映料が取れるイベントだと思います。LGBT、エコロジー、人権問題などの映画祭は結構お金を持っていて、上映料を請求すると払ってくれます。あるいは賞金を狙うことが出来ます。こういう映画祭は、制作者として参加すると、その場にすごい盛り上がりと一体感があるので、巨大な映画祭で迷ってしまうよりは、テーマやトピックに特化した映画祭で温かく見守られながら作品を共有し合う、議論する仲間を見つけられるメリットがあります。そして入ると、同じ「人権映画祭」のサイクル(サーキット)に組み込まれ、上映がさらに広がる場合もあると思います。

知っておきたいこと:昨今ここ5年間くらいの映画祭のセレクションは保守化していると言われています。最近の映画祭は冒険心を忘れ、リスク回避するようなセレクションをしている、と世界中で言われていて、ドキュメンタリーだけじゃなく、フィクション映画祭もそうですが。ドキュメンタリーで言えば観客の志向、有名監督の作品やセンセーショナルなものが観たい大衆的なお客さんに向けた作品を選ぶ傾向が強まっていると思います。映画祭の運営側にも色んな考え方があります。開催国の作品を選ばねばならないとか、日本映画が入っていく枠が減っています。応募数は増加しているのに、世界の映画祭を観ていくと同じ作品ばかりが選ばれて世界中をグルグル回っている印象があります。

CPH:DOXとドック・ライプチヒについて:ドック・ライプチヒが世界でも古いドキュメンタリー映画祭であるのに対し、CPH:DOXはコペンハーゲンで2003年にスタートした、年数だけでなく感覚がとても若いということ。観客数は91,400人。ライプチヒは今年59回目で48,000人の観客数を誇っています。ライプチヒでは、ヨーロッパで一番多い、総額75,500ユーロの賞金を出していることなどを挙げられます。

 まずはニクラス・エングストローム(CPH:DOX プログラム責任者)さんから Skype中継が始まりました。

★現地から中継:ニクラス・エングストローム(CPH:DOX プログラム責任者)

植山:映画祭の紹介をお願いします。
ニクラス:私たちの映画祭は、コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭(CPH:DOX)と言いまして、2003年にティナ・フィッシャーというディレクターが立ち上げました。私も創立チームの一員でした。創立した理念は、ドキュメンタリーの定義を拡げたいという思いです。当時はドキュメンタリーの考え方が狭すぎると思っていましたが、2003年以降の成長を見ると、間違っていなかったことが証明されました。飛躍的な成長を続けており、今では世界の3〜4に大きな映画祭の中のひとつになりました。220本の短編・長編映画を上映し、90,000人以上の観客が見ています。初年度は12,000人でしたので、急成長です。それから、映画の上映だけでなく、映画産業・業界を支援していく活動を2007年から開始しています。例えば、ファイナンシャル・フォーラムのように映画の資金を集める場や、ラボのように企画を磨くような場も作っています。この度、映画祭の日程を、今までの11月から3月16日〜26日に変更します。秋から春に映画祭の日程を変えたのは、11月に大きなドキュメンタリー映画祭のIDFA(アムステルダム)との開催日程が近かったからです。最初の10年間くらいは良かったのですが、今、開催する私たち、参加する業界人、デンマークのドキュメンタリーのプロデューサー達のためにも、離した方がいいと考えました。例えばカンヌ映画祭とベルリン映画祭が同じ週に開催されたら業界にとっては困るというのと同じことだと思います。ライプチヒも10〜11月の頃開催で、秋に映画祭が集中していました。欧州の映画祭ランドスケープを見渡すと、春に大きなマーケットの必要があると分析し、時期を移すことにしました。

植山:作品選考のことですが、どんな作品を求めているのでしょうか?
ニクラス:映画祭の当初から、ドキュメンタリーの定義を拡張するというガイドラインを元に成長してきました。拡張とは「ドキュメンタリーとは何だろうか?」というボーダーを拡げていくこと。一つにはフィクションとのボーダーを拡げていく。ここ5〜10年くらい、“ハイブリッド・ドキュメンタリー”とよく言われますけど、フィクションかドキュメンタリーか分からないという作品が増えていて、CPH:DOXはそれを後押ししてきたという自負があります。もう一つは、ドキュメンタリー映画とビジュアル・アートの境界を拡張したいと意識していて、それは私たちの十八番(おはこ)なんです。それはアーティストが長編映画や短編映画を作るということに見られます。いずれにしても私たちは、ドキュメンタリー映画の芸術性を信じていて、観客に迎合するつもりはありません。狭い世界にドキュメンタリーを止めておきたいとは思いません。

 CPH:DOXにコンペティションの部門は3つあり、ひとつはメイン・コンペティション部門。もうひとつはアート・フィルムと呼ばれている作品を上映するニュー・ビジョン部門。それから、調査報道やアクティビズムに近いような映画を上映する部門です。ひとことで言うと、多様な種類のドキュメンタリーを紹介したいという想いがわかって頂けると思います。批評家から「純粋なフィクションじゃないか」と言われる作品も上映したりしますが、私たちはそれをドキュメンタリー映画祭の文脈の中で上映することで論争を引き起こせれば、有意義じゃないかと思っています。それから、コンペティション部門ではプレミア作品を求めています。ワールド・プレミア(世界初上映)、インターナショナル・プレミア(自国以外の国で初めて)、あるいはヨーロピアン・プレミア。これら3つのカテゴリーのプレミアを私たちの映画祭で提供したいと思っています。素晴らしい作品でプレミアよりクオリティを取ることもありますが、私たちの映画祭には1,500人くらいのドキュメンタリー業界人が集まるのです。彼らは新作を発見したいという想いで集まって来るので、去年も220本の作品のうち100本は新作でした。
 コンペティションでない、アウト・オブ・コンペティションでも数多くの作品を上映しています。繰り返し開催されている特集としては、音楽部門があります。ミュージシャンの大友良英が出ているような日本作品もやっています。その他にもキュレーターが毎年新テーマの特集を組んだりもします。特集の組み方と言うのは、テレビっぽい映画祭がやるようなトピックによるくくり方ではなく、むしろ美術展のような感じで、題材より美学的にどういうアプローチをしているか、ということを捉えたキュレーション・プログラムです。

植山:コンペティションなどで日本からの応募はありますか?
ニクラス:私個人に言わせれば、まだ不十分だとは思いますが、何本か日本映画を上映したことがあります。毎年3千本世界中から応募がある中で、日本映画は10〜20本と、決して多くはないです、中には2分間の実験映画も含まれているので。今日のこのセッションをきっかけに応募が増えてくれることを期待しています。日本には素晴らしいドキュメンタリー映画の伝統がありますので。
植山:日本の映画が選ばれないのは、応募が少ないからなのでしょうか?
ニクラス:それが理由のひとつというのは間違いないと思います。日本の監督の新作で過去にコンペティションで上映したものを調べてみたら、ほとんどが日本以外に拠点を置いている人ばかりでした。例えば、何年か前に上映したNYベースのMaiko Endoさんの作品や、Akiko Okumuraさんという、フランスの国立映画学校ルフレノワをベースに活動している監督の作品で、どうやら今までは日本の新作と言っても、多くは日本以外に住んでいる人だったようです。
植山:映画祭の運営資金はどこから来ているのでしょうか?
ニクラス:基本的な運営資金なのですが、コペンハーゲン市、国の文化省、デニッシュ・フィルム・インスティチュートという映画に特化した国の機関、この他にも観客動員数も多いのでチケットセールスも大きな資金源ですし、また、小さなファンドや基金に毎年応募していて、とても時間がかかる作業なのですけど、そこからも出ています。行政のお金とチケットセールスは、セレクションにタッチさせないように気をつけています。観客数の成長を政府は喜んでいますが、私たちは芸術的な映画祭でもあり、また観客が喜ぶような映画祭でありたいという二面性を求めて開催されている映画祭なのです。行政の関係者や外部からは影響を受けることなく、100%インディペンデントで映画のセレクションをしています。小さい基金から助成ももらっていますが、彼らが何を求めているかと、私たちが何を上映したいかとの、ダイナミックなせめぎ合いの中から、セレクションが生まれてます。

植山:では質疑応答に移ります。
質問者①:作品選定の中、多分どの映画祭も、各地域ごとにフィルターになる選定の人がいると思いますが、どういった人たちを起用しているのか教えて下さい。
ニクラス:確かにもう少しアジアのプログラムを丁寧に作りたい気持ちはありますが、正式にフィルターを雇っている訳ではありません。インフォーマルな場面では、藤岡さんなどに新作を訊いたりはしますが、今後もっと公式な形で、アジアの作品をカバーしていくようなプログラムのセレクション体制を作っていきたいと思います。私が3千本全て観ている訳ではありません。予備選考委員というのは地域別でなく、違う形で分担をしています。マッツ・ミゲルセンというプログラマーがコミュニティ全体を見渡して、ハンドリングしています。今後、プログラマーを何人か増やしたいと思っていて、昨年HOT DOCSのトップ・プログラマーだったシャルロット・クックさんがうちのセレクション・チームに入りました。今後はアジアにおけるプログラミングを充実させていきたいです。プログラムを今システム変更中です。私たちのプログラムが2003年に映画祭が発足してから余りプロファイルを変えずに一貫性を保ってこられたのは、作品を選んでいるのが私とマッツとフェスティバル・ディレクターのティナ・フィッシャーの3名という非常に少人数で、年間を通して新作を観てきたからだと思います。他の映画祭を見てみると、沢山の人を雇用して沢山の人がそれぞれのプログラミングをしていると聞くのですが、そうしていくと映画祭の個性がそれ程明確ではなくなってしまうのではないかと思います。現在は私たちの映画祭への応募がとても増えているということもあり、映画祭が成長しているこの時期に、システムを変えるタイミングに来ているのですが、その中でプログラムを増やしていこうと考えています。一方で、映画祭のプロファイリングは大切だと思うので、この“セクト(宗派)”のような小ささは失わないでいたいと思います。

質問者②:日本でも沢山いいドキュメンタリーが出来ているのですが、どういったドキュメンタリーが観たいのか、日本のどういう点に関心があるのか教えて下さい。
ニクラス:テーマというより、私たちはあくまでも映画作品そのものを基準に考えています。芸術的で、ドキュメンタリーのボーダーを疑ってかかるようなチャレンジングな作品を探しています。ローカルなテーマでは私たちヨーロッパ人には分からないのではないかと思われがちですが、私たちの関心はテーマよりもアプローチ、手法ですね。

質問者③:そちらの映画祭のコンペティションで受賞した場合、どういうようなマーケット・セールスに繋がるのか、例があったら教えて下さい。
ニクラス:全て作品次第と言わざるをえないのですが、毎年、私たちの映画祭に何百人ものセールス・エージェントや出資者、配給会社などが集います。もちろんテレビ局もいます。ディールを結ぶチャンスは沢山あると思います。特にコンペ作品の場合、私たち映画祭自身がミーティングをセッティングして、なるべく配給に繋がるような手助けをしています。CPHのインダストリー・プラットフォームは独自のものだと思います。映画祭によっては、映画祭で上映されるものは非常にアートっぽいものなのに、マーケットはテレビ向けのセレクションが売り買いされているような映画祭もありますが、私たちの場合は映画祭で上映されたアート系のものを、なるべくインダストリーに結びつけていく、映画祭のアイデンティティが反映されていくようなビジネス風土を望んでいます。テレビ業界の人も来ますけれども、それだけではなくて美術界の出資者だとか、フォード・ファウンデーションのような民間の基金だとか、小さいけれどもアート系の映画を愛するヨーロッパの配給会社などが集まってくる映画祭なのです。そんなわけで、いらしてもらえれば制作者にとって実りのある、映画祭と商売との結びつく場になっていると思います。もうひとつ言いたいのは、この映画祭で注目を集めると、その後作品が特にヨーロッパにおいては色んな所で上映され続けていくということです。また、私たちは北米で評判の高い映画祭なので、アメリカの配給会社が沢山新しいドキュメンタリーを探しにやって来ます。先ほど例に挙げた、Maiko Endo監督が撮った『Kuichisan』という作品がコンペで上映されたのですが、初監督で小さい作品にも関わらず、映画のチケットは完売で、しかもプレスの色んな批評文が出て、他の映画祭でその後長く上映され続けることになりました。そして欧州で上映されだけでなく、アメリカの配給も付いた、というサクセス・ストーリーなのです。作品次第というふうに言わざるを得ませんが、もちろんCPH:DOXのプロファイルに合ったものに限りますけれども、上映されれば作品の余生は保証されます。

植山:私からの質問なのですが、配給会社はドキュメンタリー専門のが多いのですか?それとも何でも扱う配給会社なのでしょうか?
ニクラス:両方のタイプがいますが、特に欧州ではドキュメンタリー専門の配給会社がとても力を持っているので、彼らの優先順位を高めて支援していきたいと思っています。彼らはCPH:DOXを大変気に入ってくれています。次回から始めたいと考えているのは、ラフ・カットを上映するというプログラムで、制作中からセールス・エージェントは配給会社に結びつけ、完成前に契約が進むような、もしセールス・エージェントが付いていないならそこを支援していくような上映プログラムを企画しています。
植山:素晴らしい情報をありがとうございます。残念ながらお時間が来たのですが、最後に言いたいことはありますか?
ニクラス:大変光栄な機会でした。このような小さなSkypeの画面ではなく、皆さんと直接お会いする機会を心待ちにしています。いつか生身の私で日本を訪問してみなさんとお会いしたいです。今のところ、台湾、中国、韓国とはご縁があるのですが日本にも行きたいと思っていますので、今回のSkypeセッションが、私たちと皆さんとの新しい、美しい関係性の始まりに期待してます。来週以降、もっともっと沢山の新しい日本からのドキュメンタリーを、皆さんからのご応募をお待ちしています。

★現地から中継:グリット・レムケ(DOK LEIPZIG映画プログラム責任者)


植山:ライプチヒに繋いでみましょう。ここは元々東ドイツでしたね。60年近くの歴史があり、CPH:DOXのような新しさというよりは、オーソドックスなイメージがあります。
グリット:ハーイ、ジャパン!
植山:早速映画祭の説明をお願いします。
グリット:ドック・ライプチヒは世界で最も古いドキュメンタリー映画祭で、来年60周年になります。350本の映画を上映し、ドキュメンタリーとアニメーション、ふたつのジャンルを上映しています。コンペティション部門があり、長編・短編のアニメーション部門、ドキュメンタリー部門、新人部門、アニメーションとドキュメンタリーのジャンルのボーダーに挑戦しているハイブリッドな、アニメーティブ・ドキュメンタリーという部門もあります。インタラクティブ作品も紹介していて、コンペティション部門も設けてあります。毎年、1,800人の業界人が集まる場です。1週間に5万人もの人が来場するこの映画祭はいつも10月末から11月にかけて開催しています。ノン・コンペティション部門もあり、特集や国のフォーカスなどをやっていて、去年は韓国で今年はトルコを予定しています。過去の作品の懐古上映もしており、今年はポーランドの映画史を特集しています。特別な作家をオマージュする部門もあり、今年はロシア人監督です。若者向けの部門もあり、今年はヒップホップをテーマに開催する予定です。映画部門の売り買いの場・インダストリアルでも非常に多くのアクティビティを用意していて、デジタル・プログラムや国際共同制作のミーティングを促したり、企画をピッチし出資者に出会うミーティングも開催されています。

植山:では、こちらから質問します。作品選考のポイントはどういうものでしょうか?どういう作品を求めていらっしゃるのでしょうか?
グリット:はっきり明文化していませんし、選考コミュニティの人数は6名で、メンバーは様々です。男女、アニメーション専門家やドキュメンタリー専門家、映画の制作者もいれば映画史家もいる、映画批評家もいる、東西ドイツ出身者がいる。元東ドイツだったライプチヒでは、東西ドイツの出身者の価値観のバランスは重要です。また、ドイツ人じゃない人もいます。このように、経歴の違う人たちが一緒に作品選考していくことで、結果的に多様なラインナップが生まれています。
その中で唯一重要なのは、ドキュメンタリーでもアニメーション作品でも、どれだけ芸術性が高いか、ということです。私たちは一人の芸術家の指紋のような、その人にしか出来ないものを求めています。私たちの本意は、いかに多層的な現実を映し出し、世界を映し出すことが出来ているのか。トピックがどうとか言うよりも、その世界と私との関係性がどのように描かれているのかです。コンペティションで上映するものは、必ず最新の映画で、プレミア作品が原則であり、ワールド・プレミア、インターナショナル・プレミア、最低でもヨーロッパ・プレミアである必要があります。コンペ以外の部門では、他の映画祭で上映されたものを上映することもありますが、少なくとも初めて上映されてから1年以内である新作が望ましいです。1歳以上のものはかけません。

植山:日本の映画がかからないのは、やはり応募が少ないからでしょうか?
グリット:日本からの応募で上映がないのは悲しいことなのですが、3月に今年の応募を開始し、丁度今、第1回目の予備選考が始まっていますが、今のところ世界中から1,600本集まっているのですが、その中で日本の作品は今のところ、13本。去年を見てみても、全部で15本に満たないくらいしか日本から応募はありませんでした。どうしてなのか分からないですが、もしかしたら私たちは日本で知られてない、コネクションの問題かも知れませんので、今回のこのSkypeミーティングの機会をとても楽しみにしていました。ぜひ応募して欲しいと思います。
植山:他の諸国からの応募状況はどうなのでしょうか?
グリット:東アジアからはそれ程多くはないのですが、インドからは結構多いです。去年、韓国特集をした関係で、ソウルに住んでいるアドバイザーを雇うようになりました。そんな訳で、韓国からの応募も今年は多いです。恐らく韓国特集でうちの映画祭を知ってもらったからです。国にフォーカスを当て、代表団の交換をすることは、交流を豊かにする可能性があると思います。私たちの場合はドイツ文化センターや外務省などの支援をもらいながら交流をしたおかげで、韓国からの応募が増えていきました。中国ではご存知のようにインディペンデントの中国人が海外の映画祭に応募していくのは難しいので、ソウルにいるコーディネーターに頼んで、中国のリサーチを進めてもらおうと思っていますし、恐らく東京でのイベントにも動いてもらおうと考えています。今、丁度アジアとの関係性を培っていこうと考えています。

植山:日本の特集はしないのでしょうか?
グリット:通常、国特集は2〜3年先を計画しています。政治や助成など、資金ねん出に時間がかかると思いますが、面白いアイディアですね、検討します。ぜひ一緒に進めていきましょう。
植山:先ほど外務省から補助がでていると言っていましたが、運営資金はどうなっているのですか?
グリット:今、私たちの映画祭では、200万ユーロの予算規模で運営しています。一番大きなところではドイツ政府からで、他にザクセン州、ライプチヒ市。実は映画祭を運営している会社はライプチヒ市が100%出資している会社です。その他にはドイツの文化機関や映画機関、地域の文化機関から助成金を得ていて、また民間からも沢山協賛を得ています。
植山:ドイツ政府からお金が出ているということは、それが上映プログラムに影響を及ぼすことはないのですよね?
グリット:行政からの助成がないと成り立たない映画祭ですが、政治的な介入は一切ありません。

植山:インダストリアル部門やマーケットの役割は?
グリット:私たちは巨大な映画祭に育ってしまったので、サバイブしていくにはマーケット部門はなくてはなりません。上映プログラムと同じくらい重要な部門です。ライプチヒという小さな街に、2,000人近くの世界中の業界人が集まってくるのは大変な影響力ですし、この人たちに集まってきてもらい共同製作やピッチングやパネル・ディスカッションに参加してもらうことで、アーティスティックなドキュメンタリーを育てていく場を作るということです。一同が集って新作の育成のために動く。そして出来上がったものがライプチヒの映画祭の上映プログラムで紹介されることはよくあります。もうひとつは伝統的に東西の架け橋としての役割があります。かつて東ヨーロッパの一部でドイツの一部でもあったライプチヒは、東西のミーティング・ポイントだったのですが、今では欧州と世界のミーティング・ポイントで、非常に国際的な場なので、アジア人も国際共同製作のパートナーを探しにぜひ、企画を応募して下さい。

植山:国際共同製作マーケットに日本の参加者は今までいたのでしょうか?
グリット:私は上映プログラムのトップなので共同製作プロジェクトのことは余り知りませんが、非常に国際的とだけは聞いています。インダストリー・プラットフォームのことを言うなら、我々の映画祭はアニメーション、ドキュメンタリーやインタラクティブ・メディアの業界人が一度に集うところが非常に特徴的です。例えばゲーム・デベロッパーがドキュメンタリーの人と交流したりするなど、非常にオープンでハイブリッドな場を形成しています。
植山:グリットさんにとって、ドキュメンタリー映画祭の役割は何だと思いますか?
グリット:デジタル革命で、どこでも誰もが小さいデバイスで映画を観られるような時代に入りましたが、その中でも映画祭の役割は益々重要になってきていると思います。今ドイツでは400ものプロフェッショナルな映画祭があると言われていますが、映画の上映と合わせてイベントが必要とされていると感じます。今、映画がとても多いので、映画祭で上映してもらえないとセールスや配給に拾ってもらえません。世界の消費者の手元に届くためのファースト・ステップを映画祭という場が提供しているのです。つまり、映画産業全体のキュレーションをしているのが映画祭で、TV局の編成担当者や配給会社が私たちのセレクションを信頼して、導かれてくれているということです。
植山:素晴らしいですね。では会場からの質問タイムに移ります。

質問者①:インタラクティブ部門があるとお聞きしましたが、なぜそうなったのでしょうか?
グリット:今、デジタル・テクノロジーの変遷と共に、物語を語るストーリー・テリングが変化している時代です。web上のドキュメンタリーや3Dドキュメンタリー、ゲームとドキュメンタリーを融合した作品など、新しい形の物語る作品が発表されてきています。去年、インタラクティブ部門は市場のテントで開催しました。ジャガイモを買った帰りにその人が無料のテントに入り、バーチャル・リアリティを体験出来る装置を頭に装着したりして、6歳から90歳のおばあさんまで、様々な人々が新しいドキュメンタリーに触れる場を企画しました。12本の企画がそこで発表されましたが、ドキュメンタリーやアニメーションのフィルム・メーカーが、コンピューター・プログラマーやゲーム・デベロッパー達と1週間、時間を共に過ごして、何か新しいコラボレーション作品を生み出す事業をやっています。子どもを見れば明らかですが、今の人はTVを観なくなり、映画はたまに観に行くかも知れないけど、興味を持っているのは小さなデバイスです。私たちも人々の興味ある分野に進出していかなければならないと考えています。

質問者②:アニメーションがドキュメンタリーの中にあるのはどういった理由なのでしょうか?
グリット:歴史的な経緯です。1955年に映画祭が創立された頃、オール・ドイツ、ドイツ全土で映画上映をするフェスティバルをイメージしていました。当時、東西ドイツは分断はあれ、まだ分断の壁はなかったんです。まもなく東西ドイツが一体にもどるだろう、と考えられていた時代にこの映画祭は始まりました。残念ながら2年後にはベルリンの壁が建設されてしまい、映画祭は東ドイツ側のライプチヒという街に納まったのです。当初からアニメーションとドキュメンタリー、それから科学映画も上映していました。20年前からライプチヒは“アニメーテッド・ドキュメンタリー”という分野を開拓していて、非常に大きな飛躍を遂げてきました。ハイブリッドなドキュメンタリーの形式が人気で、最先端であると言えますし、アート的で創造的であり、現実を扱っているという意味でも、また思いの外、両方ともアーティストの主観を通して世界を見ているという点でも、ドキュメンタリーとアニメーションの違いはそれ程多くはないのではないかと思います。

質問者③:ドキュメンタリーをアニメという手法で表現しているという意味ですか?
グリット:私たちの間でも揉めていることなのでいいご質問だと思います(笑)。定義というのは様々でして、例えばイメージはアニメーションだけど、オーディオはドキュメンタリーという場合もありますし、古典的なドキュメンタリーだけど場面によってはアニメーションが入っていることもありますし、色々な割合とか組み合わせがあると思います。全てが現実に繋がっていて、創造的な手法を持って表現したいという多様性の幅を確保したいと思っています。映画作家には、こういう風に作るべきだというジャンルに拘らないで想像力を100%駆使して作品作りに挑んで欲しいと思います。
植山:ライプチヒではドキュメンタリーのカテゴリーの中にアニメーションもありますが、普通のアニメーションも上映されています。

質問者④:先ほど、テントの中でVRとのお話をされていましたが、VRで新しいドキュメンタリーなどの表現が、すでに欧州では始まっているのでしょうか?VRのドキュメンタリーの可能性をお聞きしたいです。
グリット:色んな例がありますが、新作で最近聞いたのは、例えば『Notes on Blindness』という、盲目になった体験が出来るスマホのアプリや、インタラクティブとは特に身体体験に根付いていると思いますが、去年の作品では、自分の呼吸を機械が感じ取って物語の展開を決めるとか、パレスチナとイスラエルのボーダーの二つの街を舞台にしたwebベースの作品ですが、ユーザーがどちらの街を体験するか選べるようになっていて、イスラエル側の美容師の話を聞くとか、パレスチナ側の学校を訪ねるとか、視点を変えて色々なことを擬似体験出来るということが、インタラクティブだと思います。
藤岡:サンダンス映画祭をはじめとして、本当に多くの国際映画祭がインタラクティブ部門を立ち上げていて、作品がいっぱい作られています。恐らくファイナンシングの関係があると思うのですが、起業家精神のある会社がお金を出しての投資が多いから作られる作品が増えていると思います。
植山:パリのドキュメンタリー・コーナーでも、360度のバーチャル・リアリティの作品を作った監督にフォーカスしてその方のお話を聞くことをやっていました。今とても最先端ではないかと思います。グリットさん、最後に会場にメッセージをお願いします。

グリット:今回のこの機会に大変感謝しています。日本の皆さんとの繋がりを大事にしたいと思います。ぜひ応募して頂きたいです。7月の頭まで、今年のプログラムのセレクションは続いていますので、ぜひhttp://www.dok-leipzig.de/en/を検索して下さい。サイトに行くと応募要項があって、自分の作品のデータファイルをアップロードするようになっています。また、国際共同製作に興味ある方は、企画段階でコープロ・ミーティングに応募して欲しいです。日本の作品を沢山観たいので、何か問題があった時や質問がある時は、サイトに私の連絡先が記載されていますので、直接連絡して下さい。歓迎します。
植山:ありがとうございました!

Skype中継を終えて:国際映画祭応募の現実

植山:本当に二人とも素晴らしい人格者の方々で、心の底から映画を愛しているのがビンビン伝わってくる時間でした。藤岡さんにもお訊きしたかったのですが、CPHもライプチヒもこれくらい大きな規模の映画祭が今、ラフ・カットの上映や、ラフ・カットで資金を調達することを始めているのですけれども、流行ってきているのですか?
藤岡:多分、完成する前からセールス・エージェントが仕上げに関わりたいと思っているのではないでしょうか。仕上げがとても大事だという意識が高く、インディペンデントのプロデューサーがなかなかそこまで意識が回らないということもあるのではないでしょうか。
植山:よく海外の批評家や映画祭のディレクターと話をすると、日本映画はどうしてもポスプロが弱いとよく話すんですけど、そういった時にラフ・カットで提出して、ポスプロに関する資金を集めたり、ポスプロ自体を海外でやるということが、これからは非常に大事になってくるのではないかと思います。
藤岡:お金だけじゃなくて、例えば日本で長い間日本人に囲まれて日本の観客に向けて作っていると、日本以外の人がどういう風に観るかという視点が薄れていくと思うので、最後のところで外部の人と意見交換しながら仕上げていくことが重要。面倒だと思う人も多くいるとは思いますが、そこには大きなマーケットがあって、自分の作品を観てくれるお客さんが待っているのですから、最後ところのコラボレーションには可能性が沢山あると思います。
植山:例えば、カンヌに入ってくるような作品だと、必ずフランスの編集担当の方がいらっしゃって、色々な国の人が観て分かるということが非常に大事だとよく言っておりますが、ドキュメンタリーももちろん視点が世界中で観て分かるということが必要だとよく思います。あと、やっぱりポスプロのクオリティがすごく劣っていると良く言われるのですが、この辺のこと、どう思われます?
藤岡:商業的な目で観る人と私とは少し違うと思いますが、ドキュメンタリーの場合は、これまではTV放映で売れていくことがとても多かったので重視されてきました。映画鍋でも深田晃司さんや、セッションでも、そういった話や音響の質の問題をよく聞きました。
植山:音は本当に重要ですね。2016年5月現在の話として、劇場公開してシネコンにかかることを想像して頂くと、5.1じゃないと作品が見劣りしてしまうようになるかなぁ・・・と思うし、バイヤーの皆さんには、「エッ??4Kじゃないの?」とよく訊かれたりします。特にドキュメンタリーはそうです。
藤岡:私は個人制作のドキュメンタリーをずっと応援してきている立場ですから、植山さんとは少し考え方が違うと思いますが、私は映画祭を運営していた関係もあるので今日お話頂いた2人と近いのですが、やはり作品次第ではないでしょうか。プロダクション・クオリティが高いから映画祭に選ばれたというのは聞いたことがないです。
植山:勿論そうですよね。ただ、プロダクション・クオリティが低いと私のように売る立場だと、「これ、本当にいい作品なんだけどね〜〜・・・」で終わってしまうことが多く、もう一押しポスプロにあと10万ぶっこんでくれたらもうちょっと売れたのに、ということはあるということですね。
藤岡:色々な人が周辺にいて、色々なアドバイスを受けながら仕上げていくといいのかな、と思いますね。国際映画祭の話は、今日の2人の話から、植山さんに何か新しい発見はありましたか?
植山:特にCPHは、去年のラインナップを見ていても本当に素晴らしくて、『カルテル・ランド』や『真珠のボタン』とか、今2016年に日本でかかっている映画がボンボンかけられていたりして、ここが潮流になりつつあるのかな、という気はしています。
藤岡:そんな映画祭でプログラムを選んでいるのが、こんないい人達だと言うことは驚きですよね。
植山:本当にそうですね。マーケットで出会ったら、私にも気軽に声をかけてくれる人格者の方達で。国際ドキュメンタリー映画祭の方達と話すと、本当に日本の映画が少ないとよく怒られるんですね。ですので、ぜひ作品を提出してほしいと思いますね。どうしてなんでしょうね?

藤岡:私がひとつ話したいことは、数日前に出た記事でびっくりしたのですが、皆さんFilmFreewayWithoutaboxってご存知ですか?映画祭に応募するサイトがあるのですが、自分の作品のシノプシスやクレジット、作品の試写リンクもそこにあげておいて、そこから色んな映画祭に応募出来るようになっています。ほとんどの映画祭には応募料がかかるのですが、この記事によると、世界中の映画祭は平均すると$65、大きめの映画祭だと$100くらい取っているのが相場だそうです。そんな応募料を取る映画祭に、毎年2千本、3千本、サンダンスなら4千本応募がある。すごい金額ですよね。一方で、応募料免除という制度もあるんです。聞いたことありますか?映画祭事務局の誰かと知り合いだと応募料が免除になるコードを教えてもらい、Withoutaboxを通して応募する時にそのコードを入力すると無料で応募できるシステムなのです。調査をした人によると、37箇所の映画祭に聞き取り調査をして、そのうちの17箇所では、応募料を支払って正面から応募した作品を一本も上映していないということが分かりました。
植山:ハハハハハ!!!(会場失笑)
藤岡:トライベッカやポートランドなどの大きな映画祭なのですが、つまり、「新人発見しますよ。誰にでもオープンですよ」と言っておきながら、結局コネクションのある人がタダで応募して選ばれていくということで、変じゃないですか。私も応募する側なので凄く腹が立つんですけど。落ちた人が有名人とコネクションがあったりとか、例えば被写体やプロデューサーが有名だったり、誰かの名前がすでに過去の成功作と繋がっていたりする新作だと、優先的に選ばれていくらしいですよ。
植山:凄いショッキングですね・・・。
藤岡:でもそのようなシステムを撲滅することは難しい。今応募作品数も映画祭も増えている中で、抵抗することは難しいと思うのですが、自分が出す場合、手当たり次第正面から応募してもしょうがないことが明白になったことで、自分の映画はどこで上映して欲しいのか、凄く真剣に一生懸命考えて、どこに出すのかリサーチしていった方がいいと思います。でないと応募サイトも映画祭も、自分のお金で無駄に儲けさせてしまうシステムので。私の大好きな、中山治美さんのシネマトゥデイでの連載で、「ぐるっと!世界の映画祭」というレポートが頻繁に更新されているのですが、本当に世界中の映画祭のレポートが上がっています。調べていくと「自分はここの映画祭いけるかも!」と思う映画祭があるでしょう。公式サイトは自己宣伝なんで伝わってこない場合もありますが、こうした日本語できちんと書かれたリソースを利用して、ご自分の国際展開の道をしっかり考えていって欲しいなと思います。
植山:映画祭サーキットのお話を藤岡さんからお聞きしたいのですが。
藤岡:新人が参入するのがとても難しい、不平等な業界だとは思うのですが、『祭の馬』の海外展開をハンドリングしたときに、アムステルダム・ドキュメンタリー映画祭でプレミア上映が出来て、その後比較的多くのところを向こうからのオファーで上映することが出来ました。『三里塚に生きる』をハンドリングした時は台湾ドキュメンタリー映画祭という物凄くいい映画祭のオープニングを飾ることが出来たのですが、成田空港建設反対運動の当時闘ったお百姓さんたちが今どうしているか、の内容が、欧州では全然ダメでしたが、最近アジアで起こっている学生運動などもあり、現代に繋がっている映画がアジア中でちょっとしたサーキットになり、巡回されていく流れが出来たのは、運や偶然もあるかも知れませんが、単純に大きさで「ベルリンに応募しよう」と考えるのではなく、自分の描いた作品は世界のどこの観客が観たら反応するだろうか、ということを考えながら進めて頂きたいと思いました。
植山:海外のドキュメンタリー映画祭が知られていないこともあったと思うので、日本の映画がもっと色々なところで影響力を持って欲しいなと思います。本日はありがとうございました。

講座を終えて

 初めての欧州とのSkype中継は無事に終わり、ニクラスさんやグリットさんのお話や藤岡さんの衝撃的なお話も相まって、ヒントが満載の、とても内容の濃い回でした。私は特に、ニクラスさんやグリットさんのお話で“ハイブリッドなドキュメンタリー”というキー・ワードが印象的でした。CPH:DOXの場合、フィクションとのボーダーを拡げていくことと、ドキュメンタリー映画とビジュアル・アートの境界を拡張していくこと。ドキュメンタリーのボーダーを疑ってかかるようなチャレンジングな作品を探していて、映像的なスタイルとかテーマよりもアプローチ重視で、またDOK LEIPZIGでは、ドキュメンタリーでもアニメーション作品でも、芸術性重視で、その人にしか出来ないものを求めており、いかに多層的な現実世界を映し出すことが出来ているのか。トピックがどうとか言うよりも、世界と私との関係性がどのように描かれているのかということ。これらの部分は両映画祭で共通した意見だと感じました。日本は真逆だという印象があるため、今回のお話の中で特に印象に残りました。そして当然ですが、両映画祭ともにコンペティションで上映するものは、必ず最新・プレミア作品が原則であり、ワールド・プレミア、インターナショナル・プレミア、最低でもヨーロッパ・プレミアである必要があること。コンペ以外の部門だとしても、少なくとも初めて上映されてから1年以内である新作という常識を再認識しました。
 二クラスさん、グリットさんをはじめ、このようなフレッシュな企画を立て、的確なアドバイスを下さった藤岡朝子さん、日本のドキュメンタリー作品のセールスの国際映画祭の現場からのご意見を忌憚なくお話下さった植山英美さんに深く感謝の意を表します。このSkypeセッションが世界に繋がるきっかけにますように。
(文責:山岡瑞子)

これは、当日収録されたイベント全編の動画です。