鍋講座vol.48【国内映画祭の明日はどっちだ!?~インディペンデント(な)映画祭の理想と現実~】レポート
開催日時:5月13日(土)18:30~
会場:下北沢アレイホール
全国各地で毎年数えきれないほど開催されている映画祭。これまで独立映画鍋では東京国際映画祭やフィルメックス、ぴあフィルムフェスティバルといった比較的大きな映画祭についてのイベントを行なってきました。しかし、国内で行われている映画祭の大多数は、そういった映画祭よりも小規模で、それぞれ独自の特色や文脈をもった映画祭です。映画の作り手にとっても、自分の作品をより適切な場所で披露するために、そうした映画祭があること、つまり様々な選択肢があることは大きな助けとなるはずです。今回の鍋講座は、そんなインディペンデントな映画祭の実情と展望について迫りました。企画者は自ら神戸インディペンデント映画祭を運営している斉藤啓さん。映画祭が「インディペンデントである」とはどういうことなのか、どのように映画祭の理想を描きそれをどのように実践していくか。斉藤さんの切実な思いとともに盛り上がったイベントを振り返ってみます。
日々日本のどこかで行われている映画祭についてきちんと知るために、まずは以前、国立映画アーカイブ客員研究員として国内映画祭の調査を行っていた元村直樹さんから論点を整理してもらいました。映画祭と上映企画を区別することは難しく、毎年新たに始まる映画祭や終了する映画祭もあるという現状で、元村さんはインディペンデントな映画祭の役割について以下のように挙げました。
・映画に興味を持たせる
・さまざまな映画を見せる
・映画づくりを教える
・映画の上映機会を設ける
・才能を発掘し紹介する
・映画づくりの仲間を集める
・映画づくりを支援する
・プロとの交流
・マーケットを提供する
・優れた映画を顕彰する
商業的なプロモーションや利益の追求ではなく、このように映画文化の振興にフォーカスした映画祭がインディペンデント映画を支援する映画祭=インディペンデントな映画祭と呼べるのでしょう。
もうひとりのゲスト、TAMA NEW WAVEディレクターの宮崎洋平さんからは、映画祭TAMA CINEMA FORUMがどのように運営されているかを詳しくお話ししていただきました。この映画祭は、新しい才能を発見するために2000年から始まり、運営は市民ボランティア(10代から80代までの約60名)からなる「TAMA映画フォーラム実行委員会」に担われているそうです。多摩市との協力関係も深く、映画祭開催の上映ホールや、運営会議のための会議室は、多摩市内の公共施設を利用するほか、多摩市の行政が後援や共催で参加しています。
TAMA NEW WAVEの方針もはっきりしており、「作家としての自己表現を尊重するとともに、中篇・長篇として、観客を意識した映画作り」つまり、「ストーリー構成力、キャラクター造形力、映像としての表現力」に重点を置いて審査しています。バランスのとれていてかつ先鋭的なプログラミング、行政との間に築いてきた協力関係、有志のボランティアスタッフによる献身的な運営が、TAMA CINEMA FORUMを支えているのだという印象を受けました。
斉藤さんの神戸インディペンデント映画祭は2023年で5年目を迎えます。この映画祭を始める前にほかのいくつかの映画祭のリサーチをした斉藤さんが実感したのは、まちおこし映画祭や行政の介入が強い映画祭では、特定のジャンルや表現に規制が入る可能性があること。また、上映環境の悪い映画祭や、作品制作者へのリスペクトに欠ける映画祭があることでした。そうした反省点を踏まえつつ、斉藤さんは新しいインディペンデント映画を紹介し、作り手たちが交流できる場を作りたいと思っているそうです。
しかし地方で映画祭を運営するうえでの苦労もあります。神戸で開催している映画祭なのに、応募作の9割は東京で作られた作品で、映画祭会期中も神戸の地元の俳優や監督があまりこないこと。自作が上映されるので映画祭にきた作り手が、ほかの作品に興味を持ってもらいにくいこと。さらには集客についてもつねに悩みは絶えません。これについては宮崎さんも頷いていました。
こういった点を解決するためにも、一般のお客さんがインディペンデント映画の面白さに気づいてもらうようなプログラム、自分の関係する作品だけでなく他の作品も一緒に見てもらえるような組み合わせ、そして地方ならではの一箇所に大勢が集まって泊まり込みで時間をかけて親睦を深める場の提供など、斉藤さんは様々な工夫をされています。映画祭の後につながるよう作品の支援を行うこと、過去の入選作家と連絡を取り合い映画祭との縁をつなげること、映画祭の援助のもと神戸で撮影する短編映画の企画募集を行うことといった取り組みも映画祭を根付かせるために大切な取り組みだと思いました。
具体的な運営費や主催者の持ち出しといった話題まで赤裸々に語られた本イベントでは、映画祭を実際に運営するなかでの苦労や不安がありありと伝わってきました。一方で、そうした少なくない負担を抱えながらも、なぜ映画祭を行うのかという根本的な姿勢も見えてきました。目先の集客も大事ですが、なによりインディペンデント映画の新しい表現を開拓する、というインディペンデントな映画祭の本来の目的を見失わないこと。その理想があってこそ現実と向き合うことができるのだと思える鍋講座でした。
(文責:新谷和輝)