【レポート】映画業界本音ガイダンス2021-早春-
映画業界の“リアルな声”をお届けする「映画業界本音ガイダンス2021-早春-」参加した学生さんにイベントのレポートを書いていただきました!アーカイブ動画も全編公開します。
「映画業界本音ガイダンス」はその名の通り、映画業界に様々な立場で関わる方たちのリアルな話を聞くことのできるとても貴重な機会でした。私のような学生にとって、映像業界に関わりたいという思いはあっても、その関係者の方に出会う機会は非常に限られており、たとえ出会えたとしても、仕事事情についてゆっくりお話を伺うことは難しいのが現実です。さらに東京ではなく地方に住んでいると、そのチャンスはさらに限られています。
そのような中で今回のようにオンラインで約2時間半もお話を聞けたり、質問に答えて頂けたことは非常に有難いことでした。お話の中では、業界の抱える様々な問題や「仕事」として成り立つまでの道筋の厳しさなど綺麗事ではない話もきちんと聞くことができ、しかし同時に前向きな希望と共に背中を押してくれる、とても心強いガイダンスでした。
夢では終わらない具体的なイメージ
阿部瑶子さんは映画のプロデューサーを志してから今に至るまでの紆余曲折を話してくださいましたが、まず私にとってディレクターではなくプロデューサーを目指すということがイメージになかったので、そういう夢の持ち方もアリなのだということを知りました。また、プロデューサーになるまでの多様な道筋の可能性を示してくださったことで、漠然とした夢では終わらない具体的なイメージを持つことができました。
三谷伸太朗さんは、脚本家・構成作家として関わる仕事の幅広さ―映画、ドラマ、アニメ、ゲームなど―と、それぞれの仕事内容の違いを示してくださり、私にとってはとても新鮮なお話でした。脚本作りが実際に仕事として成り立つまでにかかった時間を聞くと気が遠くなる思いがしましたが、やはり作品の中心になる脚本家としてのやりがいは唯一無二であり、目指し甲斐がある職業だと感じました。
俳優の森崎めぐみさんは、更衣室やトイレの事情など労働環境問題のお話を聞くことができ、驚かされる部分も多かったです。しかし当事者から権利を主張していけば環境は変えられるという力強いメッセージが印象的でした。これは映画業界に関わらず、幅広い映像制作の現場、ひいてはあらゆる芸術の世界に共通する話なのかなとも思ったので、日本が抱える大きな問題に思いを馳せることができたという意味でもとても有意義でした。
ドキュメンタリー映画の編集・プロデューサーなどをなさっている秦岳志さんも、今の仕事に至るまでの様々な経験を話して下さいました。ドキュメンタリー自体は何となく日本では斜陽に感じますし、さらに「編集者」というなかなかイメージしづらい仕事でしたが、ドキュメンタリー制作の中での「編集者」の存在意義とその将来性についても示してくださり発見が多かったです。
以上のようなゲストの方々のそれぞれのお話に加えて、質疑応答の中では映画そのものや働き方についての考え方など、より規模の大きな話に発展する場面も多くあり、終始とても面白いお話を聞くことができました。
綺麗事だけではなく“本音”のガイダンスで心構えも
今回のガイダンス全体を通して、まず強く感じたことは、なかなか変化しにくい労働環境の厳しさと、この業界できちんと仕事としてお金を稼げるようになることの難しさでした。それを無いものとせず、きちんと伝えてくれるという意味でも正に「本音ガイダンス」だったと思います。労働環境やハラスメントなどの問題点に関しては、常に新しいものを発信していく業界でそのような状況なのかと、少なからず驚きもありました。もし何も知らず飛び込んだ現場で直に出会っていたら、精神的にダメージを受けたり、業界自体に失望したりしていたかもしれません。しかし今回事情を聞けただけでも一応心構えができましたし、今回お話しされた方々のように問題に思っている人がいる、さらにそれを変えようとしている人がいると知れただけで、現場で自分が何か問題に思った時に「そういうものだ」「仕方ない」と必ずしも全て受け入れる必要はなく、時には変化を求めていいのだと思える気がしました。
やりたい仕事でお金を稼ぐ 映画業界の厳しさとやりがい
お仕事への道筋に関しては、ゲストの方々それぞれ多様でしたが、皆さん共通して非常に地道な道を歩まれているなと感じました。やはり自分の本当にやりたい仕事でお金を稼げるようになるまでに時間もかかれば、他の仕事も掛け持ちする必要もあり、たとえ仕事になってもそれが順調に続くとは限らないというのは、現実としてあるとのことでした。それでも、それぞれの体験談から道筋を開く可能性を具体的にイメージすることができたことで前向きに希望も持てましたし、最終的にはやはり原点として、映画業界で働くことに対するやりがいの大きさや情熱に非常に背中を押されました。
映画業界でこの仕事がしたい!と思うと、その道筋の見えづらさから、不毛な先行きの見えない砂漠に乗り出すような不安が伴います。今仕事をなさっている方たちについて「運の力だ」と言ってしまえばそれまでですが、その運を切り開いていくために、ただ漠然と不安がったり闇雲に頑張ったりするのではなく、前向きな覚悟をもって一歩踏み出し、一つ一つの出会いを大切にしながら、地に足の着いた努力をコツコツ重ねていく勇気と希望をもらったと思います。このように参加者に非常に寄り添う形で相談に乗ってくださり、さらに非常に心強いお言葉をたくさんいただき、ありがとうございました。
村瀬萌(大阪大学言語文化研究科)