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イベントレポート

【鍋講座vol.28】「独立系映画を映画館にかけるには①~映画館に聞く~」レポート

【日時】2016年3月23日(水)19:00~21:00

【会場】下北沢アレイホール
【ゲスト】沢村 敏(東京テアトル株式会社 映像事業部編成部)
【ファシリテーター】伊達浩太朗(独立映画鍋理事)

 独立系映画を制作する人々の、制作に比重を重くするが故に上映等の出口戦略が薄くなる傾向を変えていくため、独立映画鍋では、映画の製作以降の各段階( 配給・宣伝・上映など )の事情を探っていく企画を開始した。今回は、『独立映画を映画館にかけるには』シリーズの第1弾。東京テアトル株式会社で劇場での映画上映の番組編成を手掛けている沢村敏さんをお招きし、当日は会場いっぱいの80名の大盛況となり、皆さんの関心の高さを感じた。

東京テアトル・編成の仕事とは

 東京テアトル株式会社は今年で創立70周年。映像・飲食・不動産事業部がある。映像事業部では映画館の運営、配給・宣伝・製作事業を行っていて、劇場は9館・23スクリーンが主に東京と大阪にあり、一部の劇場を除き、主に単館系と言われる作品を上映している。
 沢村さんは学生時代から8ミリで自主映画を作り、もともと自分の作った作品でなくとも、自分が面白いと思った作品を観せるのが好きだったそうだ。95年に東京テアトル株式会社入社後、98年の北野武監督の『HANA-BI』のタイミングでテアトル新宿に移り、現在は全国で1億円売り上げれば凄いという時代なのに、当時『HANA-BI』 はテアトル新宿1館だけで1億3千万円も売り上げていた。当時、ヒットしたら長期間上映するものだったので、3ヶ月間ほど上映していた。その後、沢村さんは大手チェーンの直営館がない独立系だけがある池袋地区の映画館へ異動して、他館の若い支配人同士で映画振興しよう、と池袋シネマ振興会を立ち上げたり、若松孝二監督作品を5年間、最後の作品まで担当するなど映画製作に関わりながら、日本映画を中心にバラエティーに飛んだ番組編成を12年間されている。現在も和歌山県の田辺・弁慶映画祭(インディーズコンペのある映画祭)では予選から審査も担当し、グランプリの監督作品・受賞作品をレイトに組み込むなど、若い才能に出会うことで刺激を受けていると語られた。テアトルでの番組編成は3人。各担当劇場があり、どの作品を、いつまで、どのタイミングで、どう宣伝して、興行し、精算をする仕事を行う。自社ビルのテアトル新宿はオールナイト上映も組めるので、観客の体験的行為として、映画好きな人たちと朝まで映画に浸り語り合う経験を、沢村さんは大事だと考えているそうだ。

現在の観客動員数と興収など

 年明けに映連が公開している2015年データーでは、映画館動員数が1億6,600万人。年間平均1人当たり1.3本しか劇場で映画を観ていない。興行収入は2,171億円。景気の良し悪しの影響を受けにくく、映画業界はいつも2千億円前後で、出版・音楽事業では上下する年があっても、映画は横ばい。ちなみに紅ショウガも2千億円市場だそう。2015年は『マッドマックス 怒りのデスロード』、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』、『007 スペクター』など、洋画大作の年だった(洋:邦の興収比率では45:55)。動員数よりも興収の方が、前年比が高い理由は、3D、4DXなどで客単価が上がっているためと思われる。全体の興収は前年5%増。2015年の国内の公開本数は1,136本で、邦画581本のうちメジャー系邦画は250本だとしても、単館系邦画だけで1日1本のペースで公開されている事になる。また、ライブ・ビューイングやコンサートの同時中継などをODS(映画館の非映画利用)と呼ぶが、153億円もの売り上げを出している(なんと前年比149%!『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の興収が115億)。今はライブの強さ・一回性の力が強く、映画の興行でも、興行側のノウハウや工夫次第で、集客の可能性があがるようになっているそう(舞台挨拶やトークなど)。

単館系の定義とは?

 本来ならば「単館系」とは“作家性が強く、アート思考で、全国30館程度で公開する作品”のことを指すが、95年から関わっている沢村さんも、その定義を作って来なかったと語る。ミニシアターでも、エンタメ作品を志向したし、ファーストでの上映館数を増やし、短期で集客するようになっていった。2006年の『木更津キャッツアイ ワールドシリーズ』が分岐点だったと捉えている。
 2千億円の映画市場全体のうち、ミニシアター市場は都内中心で100億円、全体の5%で、それは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』1本分より少なく、すでにODSよりも低い。全国のスクリーン数のほとんどがシネコンで、単館系は1割もない。A・ウォーホールの映画など、90年代は集客力があったのに、今はアート系映画が「入らない→作らない→観ない→知らない→なくなる」の負のスパイラル状態で、単館系こそ映画の多様性を守らなくてはならない、という想いでチャレンジもしているが、数字はどんどん縮んでいる。稀有過ぎて参考にならない大成功した例として、『百円の恋』は制作費・宣伝費が低予算で、製作委員会方式とも少し違う方法で作り、宣伝も手作りで全国興収1億円を出した作品。映画に同じものはなく宣伝の手法を標準化出来ないので、その都度オリジナルな製作・宣伝方法をひねり出すしかないようだ。以前に比べ宣伝展開もSNSの時代になって大分変化してきていて、現在は監督本人などの作り手の発信が必須であり、それがないと嘘になってしまう時代。宣伝のプロでない監督らの情報発信を活かす宣伝プロデューサーの存在は非常に重要で、若い宣伝マンの方がアイディアは色々あるのではないか、と話された。
 

作品選定について

 メジャーがこれほど全盛の時代に、1館1スクリーンのテアトル新宿は健闘はしているが背水の陣で、1本の作品と生死を共にするので、作品選定は常に真摯。年間に10〜14本を昼間に、レイトも10本くらい組むので、かけられる本数がおのずと限られている。沢村さんが重要視しているのは、監督が「人」に興味を持っている作品なのだそうだ。R18でも構わず、むしろ裸大歓迎。男女が出てくると裸は出てくるので、別な目的のためではないし、過敏に避けないそう。また、監督や俳優さんに来てもらいサイン会をしてもらうなど、「作り手の顔が見える映画館」を意識しているそうだ。お金の対価として「感情」に訴える作品(何か芽生えさせるような、泣き、笑い、嫌な気分になるなどが残る作品)を選んでいるそうだ。作品によっては脚本段階で宣伝展開が見えてくること、気合いが入っている勝負作かどうかがポイント。今、インディーズは数字よりも「気合い」が重要で、その熱をどう世間に伝えるかが劇場の仕事。それと同時に人の価値観の変化とか、時代の流れを読むのも重要なファクター。これは予測している。単館系規模で映画の宣伝をしていると、年間0本の人を1本にするのは無理でも、年間6本行く映画好きを12本行く人にすることはできる。SNSの時代でもあるので、面白かったら自主的に情報発信してほしいと考えていて、これを実践したいい例が『百円の恋』と『恋人たち』。熱があれば何でもいいわけではなく、基本、脚本と企画書で決めるそうだ。

 選定で1番多いのは配給会社さんからのオファー。国内の映画祭に出向き、配給がまだ決まってない作品をあたったり、監督・プロデューサーが作っているのを知って、直に取りに行ったり、監督から直接相談を受けたり。出来ている作品の持ち込みや、企画の持ち込みもあり。出資・配給・興行のオファーとして会社に来る時は、脚本が必要だし、キャストも決定していることが望ましいそうだ。興行者側としては海外の映画祭の受賞作に弱いことも語られていた。

 どういうタイミングで決めるかは、基本的には脚本が出来てキャステイングが見えて来た時で、上映の1年前くらいに作品が決まっている。すでに2016年がほぼ埋まりつつあり、出来上がってから相談に来られても遅くなってしまう。テアトルでは10ヶ月前くらいを目安にしているが、今年のテアトル新宿は早く決め過ぎているため、脚本の段階でのオファーの方が良いそうだ。脚本は作品の0→1の段階なので、その段階で気に入ってくれる劇場があって、そこでその後もうまくセット・アップしてやっていけるのが理想。「『百円の恋』は、これはうち以外でやられたらヤバい!と、正に脚本で即決しプロデューサーへ打診しました。大ヒットになってほっとしています。」と当時の心境を語られた。
 映画の場合、脚本開発で1年、製作に1年、出来てから公開までに1年、公開してから半年ぐらい精算出来ないので、キャッシュが戻ってくるまでが長い。ここが作り手の人たちに厳しい。ここは色んなパターンがあっていいと思うので、例えば配信と劇場の同時公開もあるので、まだいい例は出て来てないけど、逆にやったもの勝ちなので、「アイディアがある人は試す余地があるのでは」と柔軟に捉えていたそうだ。

ミニシアターの潮流

 70年代、メジャー映画が全盛だった時代、お客さんの間で「私はどこでもやっている映画でなく、ヨーロッパの哲学的映画を解説付きで観たい、映画の解釈を聞きたい、語り合いたい」というシネマテーク運動、シネサロン運動が起き、その流れが80年代後半に、ミニシアターで「ミニシアターブーム」に繋がっている。多くの単館系を上映する劇場ができ、地下へ降りていく間接照明のオシャレな映画館で、映画を観ること自体がカッコ良かった。その後、ゼロ年代に権利を長く持てることもあり製作の邦画ブームが起きる。しかし、すぐにファンドシステムの不正や、リターンがないことがわかり、邦画バブルの崩壊につながる。ミニシアター史において、ゼロ年代は天国から地獄だ。2012年以降は設備のデジタル化が起き、興行する側だけに影響のあるパラダイムシフトが起こる。上映素材の35mmがDCPになり、おのずと作品のかけ方も変わっていった。2014年辺りから、100人が100人面白いと言う映画でなく、自分が観たいものを探して観る流れが少し戻ってきたように思う。俳優にも気合いが入っていて、監督達も言いたいことがあり、そういったミニシアター的な作品へ揺り戻しが来ていると感じていて、イベントなどでライブ感を加えることでお客様の関心を集めたりしている。かつての流れが戻せる気がしていて、ミニシアター系の興行収入シェアを5%⇒10%にすることで、もう少し映画の選択肢・多様性は保たれ、「成熟した映画社会」を迎えることができる。単館系はそういう形で業界の一翼を担えるのでは、と語られた。

 自らも学生時代から映画を作り、上映してきた沢村さん。「人間を描いている作品」「気合いが入っている勝負作」を作品選定の重要なファクターにしておられるという話が印象的だった。また、Q&Aの時には、「作ってしまった映画を観て欲しいが可能か?」の質問に、「思い入れのある劇場にアプローチすべき」と答えておられ、常日頃、映画を作る側が何を良いと感じてきたかというその人らしさ、人対人ということを深く考えておられるのだな、と感じた。世の中に再び自分から観たいものを探し、観る流れが戻って来ており、ミニシアター的な作品へ揺り戻しが来ていて、かつての流れが戻せる気がしているという単館系にとって良い時代の流れの予感を話しておられたことは、独立系映画の制作者にとっても、自分の「気合いが入っている勝負作」を世の中に出し、届けることの出来る可能性がより出てきたのではないか、と思った。
【文責:山岡 瑞子】
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沢村 敏(東京テアトル株式会社 映像事業部編成部)
1972年、東京生まれ。学生時代は自主映画に携わり、東京テアトルへ入社。テアトル新宿、テアトル池袋等で支配人業務を経て2003年より番組編成の職に就く。池袋時代には池袋駅周辺の劇場が連携した「池袋シネマ振興会」を立上げ、フリーペーパー「buku」を発行。劇場の垣根を越える映画振興活動を行う。編成業務としては、主に日本映画の専門館であるテアトル新宿と2011年より名画座のコンセプトでリニューアルしたキネカ大森などを担当。各種イベントを織り交ぜた興行を得意とする。新藤兼人監督、若松孝二監督らの作品を担当する傍ら、レイト枠を活用した新人監督作品も積極的に上映。近年では『そこのみにて光輝く』『百円の恋』『恋人たち』を担当。単館系の作品を中心に、映画ファンへ向けた熱のある興行を提供している。