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イベントレポート

【鍋講座vol.25】法律編⑥ネット動画と著作権 レポート

ゲスト:西脇 怜史(弁護士・弁理士)(http://nipo.gr.jp/
司会 :伊達 浩太朗(映画プロデューサー。『サウダーチ』(富田克也監督)、『解放区』(太田信吾監督)など。
開催 :2015年10月1日(木) 19時〜@下北沢アレイホール

 爆弾低気圧のお天気の中、第25回目の鍋講座は、著作権や肖像権について、法律に無知な作り手である私たちが持つ基本的な疑問を、知的財産権などがご専門の西脇弁護士に、丁寧にお答え頂いた。

 まず、問題提起として、以下の2点が挙げられた。
① 投稿者が全世界的に公開し、一般の人がSNSなどに転用している映像を使用して、何が問題なのだろうか? 
【弁護士の一般的な回答】映像の著作権者(投稿者が著作権者とは限らない)が映像の使用の許諾を受けない限り、原則、著作権侵害となる。一般の人がSNSなどで転用しているから適法ということにはならない。
② ある人の著作権を守ることが、結果的にほかの誰かの表現の自由を萎縮させるとも言えないだろうか? 
【弁護士の一般的な回答】権利を侵害する表現の自由が認められているわけではない。著作権者の保護と、他者の表現の自由のバランスを図るべく、例外規定による対応をとっているのが現状。

 この2点の問題提起から、現代の一億総クリエーター時代の現状を捉えた上で、著作権侵害とその問題背景、著作権法の目的、著作物、著作物の例示、著作権者、映画の著作物の著作権者、表現の自由などについてご説明頂いた。
著作権は、著作物を創作した時点で発生し、登録は不要だということ・無断使用は原則、著作権侵害であり、いちいち許諾をもらう必要があるということを改めて教えて頂いた。しかし、ネット上にある動画などで、誰が著作権者であるのか、探すのが不可能な場合もあるので、注意が必要。
 クリエイティブ・コモンズなどを利用し、YouTube上の映像の2次利用の条件などをクリアにして利用する手段も例に挙げて頂いた。ただ、許可している側が本当に権利者か不明な場合もあり、注意も必要だ。
 また、類似(たまたま似てしまったケース)と模倣は違うこと。東京オリンピック・エンブレムデザイン問題を例に挙げ、「模倣された」と指摘している著作権者側が著作権侵害を立証する責任があるそう。
 公表された著作物は出所の明示など適法に引用すれば利用可能であること。弁護士に依頼したい場合は、「弁護士知財ネット」HP( http://www.iplaw-net.com/ )に記載のある方法で問い合わせれば、初回のみ1時間1万円で法律相談が可能であること、また最近はコンテンツビジネスガード(http://www.aiu.co.jp/business/product/liability/contents/ )というような損保があるということも、ご紹介頂いた。

質疑応答

 質疑応答の時間では、それぞれが気になっていた権利問題についての質問が飛び交った。

時事報道目的での使用

 時事報道目的のために使用される著作物は、公共性の観点から、報道の目的からみて正当な範囲で使用可能である。参議院や衆議院で放送している国会中継の二次利用は、引用等適法に利用していれば、公共性もあり問題となることは少ないであろう(著作隣接権の問題は残る。)。

二次利用の様々な態様

 質問で上がってきたこと全てについて、二次利用の仕方の問題なので、個別に見なければ断言は出来ないと注意されていた。
 YouTubeを例にすると、体育館で行われている競技の映像を撮影しアップしたところ、その動画に会場のBGMとして流れていた音楽が入っていた場合、その音楽について権利侵害を主張するかは権利者によるし、場合によっては黙認されている場合も多いようだ。音楽利用の場合、ミュージシャンだけでなく、権利者が誰なのか必ず明確に確認し許諾を取る必要があるそうだ。
 土屋豊監督の『PEEP TV SHOW』を例にすると、テレビのニュース映像を使用するのは時事報道の目的だけならいいけど、自分たちの映画作品に取り込むのは、メインに使うなら難しい可能性があるようだ。映り込みと言われる程度に撮るか、リスクはあるがやるか、という本人の判断になってくる。「9・11のような海外の象徴的な大きな事件の現場にいなかった私たちに、テレビ局が権利を主張するようなものではないのでは?」という質問には、原則は侵害なのだが、結論的には黙認される範疇なのかも知れない、とのこと。

投稿者は本当に著作権者?

 土屋豊監督の『タリウム少女の毒殺日記』では、いじめ動画がいっぱいネットに上がっているというシーンに、実際にあがっているものを使用したのだが、「事前に顔は消し、一応権利者に許諾をとったけど返事はないのですが?」との質問には、返事がないのならこれは許諾したことにならないし、また投稿者が著作権者とも限らないので、気をつけるべきとのこと。

適法な引用

 著作物を利用する時、適法に引用すると、著作権者の承諾がない場合でも、例外的に権利侵害ではない(適法な)ので、きっちり明記等することが重要だ。
 小説の一文を冒頭に使いたい時は著作者をかけばいいか? の質問には、著者名、作品名がわかる形で引用するなら大丈夫だろう、とのこと。

和解が多い

 著作権を侵害された場合は警告をし、応じない場合は、最終的には裁判となるが、ほとんど和解で終わる場合が多いのが現状のようだ。

著作物?

 毎回ネットに食べる料理の写真をアップする人がいるが、それも著作物と言えるのか? の質問には、写真の撮り方により、スマホで撮った写真・映像も、ありふれたものでなければ創作性があるものとし扱われるそう。
作家の言葉をワンフレーズだけ引用をする時、果たして全体ではないワンフレーズは著作物なのか? という質問に関しては、個別に考える問題のようだ。

人物写真について

 Web上の歴史上の著名人の写真の使用については、被写体の肖像権の権利の問題と、撮影者の著作権の問題があり、著作権の問題は、相当昔の写真なら著作権が切れている可能性もあるけれど、撮影者が誰かを探すことが重要。昔の新聞の著作権も他と変わらないそうだ。
 指名手配犯の写真を使うのは? の回答には、一般的に考えられるのは、公共に貼られている警察のポスターには著作権が発生しても文句は言われない可能性があるが、場合によっては肖像権や名誉権の侵害となるので、気をつけなければならない。
 税金を使った公人の選挙ポスターなどは?との質問には、税金は関係ないとのこと。

権利表記

 ©(まるしー)はcopyrightの頭文字で、万国著作権条約により設定された、著作権の所有を表示する記号。慣習としては付けることが多いが、日本では登録がなくても創作時に著作権が発生しているので法的な効果として直接的なものはないそうだ。

まずは使用許可を取る

 基本的に、Web上にある誰かの映像や画像を使いたい時、権利者が分かれば使用許可を取るのは当然のことと認識し、また、どれだけ努力しても最終的に誰が権利者かわからない時、助けになるのは、こちら側がどれだけ真剣に権利者を探し、使用の許諾を得る努力をしたか証明することなので、しっかりその努力をした上でクレームに備え万全を尽くし、覚悟を持って使用しようと思った。また、どうしても不安な時には、紹介されたような弁護士知財ネットなどを使い、法律のプロである弁護士さんに個別に相談した方が確実だということなのだろう。
(文責:山岡 瑞子)