【鍋講座vol.19】~ 映画人口の少子化対策?!~映画体験を学校で~ レポート
【鍋講座vol.19】~ 映画人口の少子化対策?!~映画体験を学校で~ レポート
日時:2014年8月8日 19:00~21:00 場所:下北沢アレイホール
【ゲスト】吉原美幸(新日本映画社/エスパース・サロウ 営業)
【ファシリテーター】藤岡朝子(山形国際ドキュメンタリー映画祭理事)
今回のテーマは『映画人口の少子化対策』…時事ネタを思わせるネーミングですが、参加者からは好評だったようです。
ゲストの吉原さんは、アップリンクや東北新社を経て新日本映画社に入社し、現在は劇場営業と学校上映を担当されています。
会社名の表記が、やや分かりづらかったかもしれませんが、会社名が「新日本映画社」で、劇場配給する際のレーベルが「エスパース・サロウ」という事です。
19時に講座を開始した時点で、参加者はおよそ30名ほどでしたが、その後少しずつ増えていき、50部用意しておいた資料が無くなってしまい、慌ててコピーを取りに行くという場面も。
最終的に、参加者が60人を超える大盛況!しかも参加者の一割を超える8名もの方に新入会して頂きました。
まず最初の1時間は、学校上映を中心に「映画界全体の未来はどんな形になっていくのか」というところまで“風呂敷を広げて”お話しして頂きました。
学校上映には、主に2つのパターンがあるそうです。
1つは「芸術鑑賞教室」、もう1つは修学旅行などの「事前学習」です。
芸術鑑賞教室というのは、言葉通り、生徒に対して芸術鑑賞をさせる学校行事ですが、これは映画に限定されているわけではありません。
毎年1回、映画鑑賞を行う学校もあれば、毎年の予算を積み立てて、3年に1回、より予算の掛かる演劇鑑賞を行うような学校もあるそうです。
事前学習についても、学校によって千差万別です。
最近の傾向で言うと、都立高校の修学旅行で一番多いのは沖縄だそうです。
ただし、現在のように不景気が続くと、予算の関係で長崎辺りに変更になる学校も多いとか。
また教育的な背景から、広島なども定番だそうです。
一方、私立校だと台湾や韓国など海外に行く学校も多いようです。
作品の選定に関しても、学校のカラーが強く出るそうです。
公立校の場合、担当が毎年変わったりするので、映画をあまり知らない先生が担当になる事が多いそうです。
また、生徒の父兄からのクレーム等を嫌うため、メジャー作品を選ぶ傾向が強いそうです。
たとえば、4つぐらい候補を挙げて、生徒に投票させて決めるケースも多いそうです。
良くも悪くも事なかれ主義的な体質を感じますね。
一方の私立校は、公立校とは異なり、映画が好きな先生が継続的に担当になる事が多く、志が高い作品…たとえばドキュメンタリー映画などを上映する事も多いようです。
ただし、これはあくまでも一般的な傾向の話であり、どちらのケースでも、担当となる先生の裁量によって、大きく左右されるようです。
また、上映の規模もクラス単位なのか、学年単位なのか、学校単位なのか…という所で、予算に大きな差が出ます。
当然、それによって、上映できる作品なども変わってくるそうです。
私のイメージでは、学校上映と言うと、体育館にパイプ椅子を並べて…という感じなのですが、最近はそうでもないようです。
私立校は体育館も快適に使える事が多いようですが、公立校はそこまで設備が整っていない事も多く、たとえば空調の関係などで、長時間の上映に耐えるのは難しいようです。
そのため、近くの公共施設のホールを利用したり、映画館のスクリーンを貸切にして上映する事も多いようです。
吉原さん自身は、学校上映をあまり真面目に観ておらず、ロビーでフラフラしている事の方が多かったらしく、そのような体験から、学校上映をもっと面白くなければ!という思いを強く持っているようです。
それは現在、新日本映画社が手掛けている、個性的な上映にも反映されているように感じました。
たとえば、『ハヤブサ』の上映にJAXAのトークショーを付けたり、『パートナーズ』という盲導犬の映画を盲導犬の実演付きで上映したり…という、イベント型の上映を行っています。
他にも映画+落語、映画+フラメンコのように、映画の内容に関連するイベントをセットにした上映を実現しています。
吉原さんは特に、体験型の上映に積極的で、サイレント映画の活弁や生演奏付き上映や『フラッシュバックメモリーズ』の4D上映などを提案しているそうです。
今回は会場に、吉原さんの恩師の先生(都立高校の教職)にお越し頂いており、お話を伺う事ができました。
吉原さんは、ディズニーの名作アニメ『ファンタジア』の映像に合わせて生オーケストラを演奏するという難易度の高い上映会を企画していましたが、先生の協力を得る事で、何とか実現にこぎつけたそうです。
また、吉原さんは今年、下高井戸シネマで結婚式をされており(おめでとうございます!)、その時の映像なども観せて頂きました。
WEBで検索すると、結婚式の会場として使用された事のある劇場は意外と多いそうで、中には映画館でプロポーズしている動画なども見つかるそうです。
吉原さんのプレゼンテーションは、パワーポイントの資料をベースに進められましたが、YouTubeに投稿されいてる動画の紹介なども交えつつ、楽しく賑やかな雰囲気の中で進められました。
終盤には「映画はメディアなのか?アートなのか?」「パブリックとプライベートの二極化」などといった概念的な話から、映画の未来の可能性にまで話を膨らませて頂きました。
後半は恒例の質疑応答です。
会場はいつも以上に参加者が多く、熱気を感じる一方で、これまでの鍋講座とは、ちょっと毛色の違う参加者も多かったように感じました。
やはり「学校上映」という特殊なテーマに関心を持たれた方が多かったのだろうと思います。
「子供たちの反応が良かった映画、悪かった映画は?」というような質問に対して、『標的の村』のクライマックスで、すすり泣く中学生や高校生が結構いる…というお話は印象に残りました。
他にも「文科省推薦映画だと営業しやすいのか?」「子供による映画制作についてどう思うか?」「どのような映画が学校上映で上映されやすいのか?」など、様々な質問、意見が寄せられました。
新日本映画社が学校上映に推薦する作品には「3つのNG」があるそうです。
それは「SEX」「暴力」「自殺」だそうです。
しかし、これも積極的に学校に提案しないというだけで、最終的には担当の先生の判断によるところが大きいようです。
たとえば「障害者」なども学校によってはNGになる事があるそうです。
独立映画鍋の共同代表である深田さん、土屋さんの作品にも「ラブホテル」「毒殺」などのNG描写があり、学校上映は難しそうですが…これも革新的な先生ががんばってくれれば…というところではあるようです。
ただし、仮に担当の先生がOKと判断した作品でも、保護者からのクレームや職員会議で却下される事も多いらしく、やはり保守的な傾向は強いようです。
この時間に、会場にいらしていた、イオンシネマの大山さんからもお話を伺う事ができました。
新日本映画社は、東京を中心にした関東圏で主に活動を行っていますが、日本全国で考えると、やはり地域差というのが大きいようです。
地方では、予算の振り分けや交通など、様々な問題で、劇場を使った学校上映というのは、あまり積極的に行われておらず、子供に対する映画の鑑賞としては、学校よりも子供会のようなところが入り口になっている事が多いようです。
また、イオンシネマが学校などに営業を掛ける場合には「文科省推薦」よりも「PTA推薦」の方が有効…というような、現場ならではの貴重な情報も頂きました。
総括
今回は、学校上映という、かなり限定的で特殊なテーマの講座だっただけに、普段はあまり耳にするの事のない話が盛りだくさんでした。
たとえば作品の選定方法や修学旅行先の傾向などは、その業界にいないと知る事のできない、貴重な情報だと感じました。
吉原さんが推進しているイベント型、体験型の上映と言うのは、これからの映画の1つの形だと思います
映画というのは作品が完成した時点で終わりではなく、最終的に公開され、観客が楽しむところまで含めた文化だと考えるならば、映画鍋が掲げる「映画は多様であるべき」という理念の上でも「上映形態の多様化」というのは、今後の大きなテーマになっていくでしょう。
これまでの鍋講座は、どちらかというと製作者視点で構成される事が多かったように思いますが、今年5月に行われた、鍋オールスターズを見ても分かるように、配給や上映に関心を持っているメンバーも少なからず存在しています。
分科会の方も国際部、自主上映と広がっていますし、今後は製作のみならず、上映や配給宣伝なども含めて考えていける、より多角的な組織にしていけると面白いのではないでしょうか。
会場はいつも以上に参加者が多く、熱気を感じる一方で、これまでの鍋講座とは、ちょっと毛色の違う参加者も多かったように感じました。
吉原さんの恩師である小岩高校の先生や、かつての上司であり結婚式にも出席されたアップリンクの浅井さん、深田さんから声を掛けてお越し頂いたイオンシネマの大山さんなど、
講座終了後には、その勢いのまま打上げに突入し、大いに盛り上がりました。
開催が金曜日という事もあって、始発まで飲み明かす人たちも、いつもより多かったようです。
(文責:山口 亮)
当日、講演部分の記録動画